半兵衛様の玉顔を拝謁して、 半兵衛様のあの唇の色って地なの? それとも口紅? 半兵衛様くらい美しければ化粧しててもオッケーじゃね? という妄想の果てに書き上げました。(公式ではどうなんでしょう?) 半兵衛様の美しさは世界を滅ぼすレベルだと思います(真顔) ※ゲーム未プレイのアニメ一期と一部コミックしか見てないにわかBASARAファンなので、もし公式でこういう設定あるんだよー!とかがあったらこっそり教えてやってくださいまし…。 手の中で、紫色の物体がくるくると回る。 固い素材と柔らかい素材を組み合わせて作られているそれは、百合の主が普段つけているはずの仮面だ。 それがなぜ百合の手の中にあるのかというと、主は現在、朝の身支度の真っ最中なのである。 忍として雇われたはずの百合は主の命によりなぜか主の身の回りの世話という小姓まがいのことをさせられている。 とは言うもののこの主はだいたいのことは自分でやってしまう性分の持ち主であるため、百合の仕事と言えばせいぜい物を運んだり衣装を用意し着替えを軽く手伝うといった程度だ。 特に主が化粧を済ませるまでの間は他にすることもないので、こうして仮面をいじりながら待つというのが日課になっていた。 「ねえ」 「なんだい?」 「どうして仮面なんかしているの?」 それは純粋な疑問だった。 百合の今の主である竹中半兵衛は、しごく綺麗な顔立ちの青年だ。 何も飾らなくとも美しいの一言に尽きるその玉顔を、半兵衛はなぜか紫の仮面で覆い隠している。 しかも唇には薄紫色の口紅付きだ。 百合は半兵衛の子飼いの忍であり、本来は護衛が主な仕事のため彼が寝るときにまでそのふたつをしているわけではないことを知っていた。 仮面を外し、化粧を落とした彼の素顔を毎日拝むことができるが故に、思うのだ。 なぜわざわざ仮面でかくしてしまうのかと。 せっかく綺麗な顔立ちをしているのに。 「どうして化粧をしているのかとは、聞かないんだね」 仮面を被っていることよりも、男が化粧をしていることの方が普通は気になるんじゃないかな。 紅を塗ろうとしていた半兵衛は鏡越しに百合の方へと視線を寄越して笑った。 まあ確かに、百合とてなぜ化粧をしているのかと思ったことがないわけではない。 しかし彼の素顔と比べると、化粧をしている時の方が百合的には好みの顔であるのもまた事実だった。 より彼の美が引き立てられているし良いかという結論に落ち着いただけである。 「そりゃあね、化粧も仮面と同じくらいどうなのって最初は思ってたけど。その薄紫色の紅に関しては、貴方の場合は赤い唇よりよっぽど似合ってるから良いかなって」 もともと半兵衛は血色があまりよくない。 そのため顔色は常に青白いと言っても差し支えないほどに白く、柔らかな銀髪もあいまって彼の紫色の瞳が良く映えていた。 それだったらいっそ唇も薄紫の紅を点し、瞳の色と揃えた方がさらに綺麗だと思うのだ。 「ふうん」 百合の熱弁を聞き、半兵衛はくすりと笑む。 また鏡の中への自身へと視線を戻すと、男性にしては白く細い指先へと薄紫の紅をとり、己の唇へとのせた。 さっと塗りおえると指先をぬぐい、紅の入った器をしまう。 今度は身体ごと百合の方へ向き直った。 「君は仮面をしていない僕の顔の方が好みかな?」 「もちろんでしょ。趣味が悪いったらない。せっかく綺麗な顔をしているのに」 百合は珍しくも子供っぽく唇をとがらせた。 これは本気で不満に思っている顔だ。 彼女はあまり感情を表にださない。 特定の表情――例えば相手を丸め込むための笑顔だとか、呆れたような渋面だとかはしばしば見られるものの、それ以外については滅多に見せないのだ。 だから半兵衛は驚いた。 彼女を自分専属の忍にしてだいぶ経つが、彼女がここまではっきりと自分の意見を主張するのは本当に珍しい。 「そんなにお気に召していたとは知らなかったな」 「そう? 結構わかりやすいと思うけど。あなたを主にしても良いと思った二番目の理由は、ものすごく好みの顔だったから。あなたみたいな系統の綺麗な顔は大好きよ」 「それはどうも」 あまりにも堂々とした面食い宣言に半兵衛は苦笑した。 自身の顔を賛美する声はとうの昔に聞き飽きてしまったけれど、ここまで率直に好きだと言われるとなんともこそばゆく感じる。 「そう言われると、一番の理由が気になるね」 教えてくれるかい? 彼女が好きだという自分の顔を最大限に活用して、半兵衛は尋ねる。 百合はそれまで暇つぶしに弄んでいた半兵衛の仮面を畳の上へ放り出すと、半兵衛の方へと寄ってきた。 その白い手が半兵衛の顔へと延ばされ、形の良いあごから頬へとなで上げた後――、目元を優しく、なぞる。 「一番の理由は、あなたの目」 ふっと百合の口元が、笑みの形に引き上げられる。 黒曜石を磨き上げたような彼女の黒い瞳が、半兵衛の紫色の瞳を捉え、狂気にも似た愉悦に染まる。 「綺麗な、きれいな、すみれ色の瞳。これが一番、好きなの」 ふと視界が蔭った。 ついで右目に柔らかいものが押しつけられる感触。 大きく目を見開いた眼球を、生暖かい何かが這っている―― 「……っ」 驚いて半兵衛が身を引くと、百合はあっさりと離れた。 そしてわざとらしくちろりと出した舌を引っ込める。 白い肌に映える熟れたような赤い唇に濡れた赤が隠れていく様は、どこか扇情的ですらあった。 「あなたみたいな色の瞳が、好きなのよね。どうしても欲しくなる」 おどろかせちゃってごめんなさい、とちっとも悪びれた風も無く百合は言った。 しばらく呆然と百合を見つめていた半兵衛は、己の右目に触れる。 それなりに経験のあるはずの半兵衛も、さすがに眼球を直に舐められたのは初めてだった。 「…いつか君には目玉をくりぬかれそうだね」 半兵衛が呆れたように言うと、百合は若干むっとしながらそこらの人体収集家と同じにしないでと言った。 「綺麗な瞳は、生きている人間の眼窩にはまっているからこそ美しいものよ」 わざわざくりぬいて濁らせるなんて、そんなことはしない。 さも当然という風に百合は言うが、どちらにしてもあまり良い趣味とは言えないだろう。 「全く、君らしいというか…」 そこでふと思いついて、半兵衛は先ほどしまったばかりの紅の器を取り出した。 とん、と己の正面の畳を指で叩く。 「百合、おいで」 「? なに」 「良いから」 半兵衛が手招きすると、百合は人一人分空いていた間を詰めて大人しく半兵衛の正面に座った。 こうして改めて見ると、一見両家の子女と見まがうほどの華が百合にあることに気付かされる。 百合は己を着飾ることには無頓着のようで、常に全身黒の忍装束を身にまとっている。 たまに暇を出してやっても女性物の着物を着ることはごくごく稀だ。 今度似合いそうな着物を仕立ててやってもいいかもしれないな。 自分より低い位置から見上げてくる百合の細面を眺めながら、半兵衛はうっすらと唇に笑みを浮かべた。 「動かないで」 器を持った方の手で百合の顔を固定して、素早く紅を塗りつける。 きょとんとした顔の百合に手鏡を渡してやると、うわあ、とでも言うように顔を歪ませた。 「思ったより似合っているじゃないか」 薄紫色の紅は、意外にも百合に似合っていた。 もともと百合は色白で、髪も瞳も真っ黒だ。 来ている服装も基本的に黒のため、白と黒の中に控えめに入れられた薄紫の紅は驚くほど良く映える。 笑み含みの声で半兵衛が褒めあげても、百合の表情はしかめっつらのまま動かなかった。 半兵衛は器のふたを閉めると、小さな巾着袋を取り出してその中へと入れてしまう。 百合の手から鏡を取り上げた代わりに、紫色の巾着を自分よりひとまわり小さな手のひらに握らせた。 「それは君にあげるよ」 使うかどうかは好きにすれば良いさ。 形の良い頭をぽんぽんとなでて、半兵衛はにっこりと笑う。 おそろいになってしまった小さな唇をとがらせて、百合はこの悪趣味仮面めと主を罵った。 紫の縁(むらさきのゆかり)
ユリちゃんが半兵衛の小姓まがいのことをしている理由はちゃんとあるのですが、そこまで書くとシリアス方面に話が流れてしまうので割愛。半兵衛様の吐血シーンなんか書きたくないんだもの!!! ちなみに、ユリちゃんは以前別の世界で女中(というか女官)をしたことがあり、主のお世話もそつなくこなします。 忍なのに…ってあたりは武田のオカンとちょっと似てるかも?(笑) 半兵衛がどうして紅を点すときに化粧筆を使わないかというと、指先で塗るという仕草が好きだからです。私が。 どうしても指先でやって欲しかった。なんかこう、艶っぽくて似合いそうじゃありません? ちなみにユリちゃんのすみれ色の瞳好きは、別作品で彼女の趣味嗜好に多大なる影響を与えた某王様の瞳の色がこの色だったからです。右目を舐めたのは、その王様が右目しか持っていない人物だったから。 この王様に会って以来、ユリちゃんはすみれ色の瞳には特別に執着するようになりました。 いつかここらへんの話も書いてみたいなあ。 …あ、現実で眼球を舐めると目が病気になる可能性が高いのでやっちゃいけません。 あくまでお話の中でのことなので…。 さて、長々と後書きをかいてしまいましたが。 実はこの話、地味に続きます。 とは言っても続編ではなく、この話を踏まえた上でのお話がREBORN!の『草の縁(くさのゆかり)』です。 2012.8.16
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