※アニメ壱沿い、政宗が静養している頃。
※ユリちゃんは伊達軍の忍をやっています。

※作者はBASARA未プレイです。アニメと一部コミックしか知りません。
  いろいろ違うところがあってもそっと見逃してやってください…(土下座)















松永久秀に伊達と武田の宝を奪われることなく無事に人質を救出した数日後。
百合は相変わらず鎧の間の屋根の上に座っていた。
政宗にかわって伊達軍への指示や信玄公との話し合いをしている小十郎の言いつけで、政宗が無理して身体を動かしたりしないよう監視をしているのである。

空は晴天。そろそろ夕刻にさしかかる頃。
風も心地よく吹き流れており、本来なら気持ちよく仕事ができるはずの一日であった。
……早朝からしつこく向けられている、視線さえなければ。

ああ、イライラする。

実のところ、百合は今朝早くから何者かに跡をつけられていた。
昼頃に小十郎と政宗に頼まれごとをされたときはさすがに振り切ったりもしたが、用事を済ませて政宗の見張りに戻ってくるとまた同じ視線を感じ、いい加減うんざりしている。
クナイ投げてやろうかな。
ふと思いついて、百合は斜め後ろへとクナイを投げつけた。
何の前触れも無く、視線すら寄越さず投げられたクナイはイライラしていたことも手伝ってかなりの速度で飛んでいく。

「うわっぶない!」

それでも本気で投げなかったので相手に刺さることはなかったらしく、百合は無表情に舌打ちをした。

「…当たれば良かったのに」
「うっわひどいなそれ! いきなり投げることはないでしょー?」
「人を朝っぱらっからつけ回しておいて何を今更」
「あ、やっぱりバレちゃってた? 俺様結構本気で気配消してたはずなんだけどな」

百合が投げつけたクナイを持って現れたのは、橙色の頭の忍だった。
ぽいっと投げ返されたそれを手に持ったまま、百合は何の用と視線だけを向ける。
へらへらと顔だけは笑っているくせに瞳の奥はちっとも笑っていない男はやはりへらっとした声で答えた。

「いや、そういやちゃんと挨拶してなかったなーと思って」

そう言っていそいそと百合の隣へ座り込むと、ずいっと顔を近づけてくる。
…近い。

「もう知ってるとは思うけど、俺様は真田忍隊隊長の猿飛佐助っていうの。あんたは?」
「…伊達政宗が黒脛巾組守り頭、百合」
「へえ、伊達の旦那の守り頭だったんだ。通りで強いと思ったよ。どこの里の出?」

――俺様が本気で消した気配に気づける奴なんて、そうそういないんだよね。

鋭い眼光。
わずかに殺気が含まれたそれを、百合はクナイを振ることで霧散させた。

「気配を読むのが得意なだけ。それに、わたしは生粋の忍じゃないから。里はないよ」
「ふうん。じゃあ、伊達の旦那に応急処置を施したときの青い光。変わった術だったけど、あれなに?」
「…さあね」

まったく面倒な奴に捕まった。
半眼になって佐助を見据えながら、百合は内心で大きくため息をついた。





その日、佐助は一日をとある人物の監視に費やしていた。
対象は伊達のくノ一。
伊達政宗や片倉小十郎の会話から察するに名前を“百合”というらしい少女は、調べれば調べるほど謎の多い人物だった。
忍の世界は案外狭いものである。
故に実力のある者はその名が広まり、異なる里の忍の耳にもよく届く。
しかし百合という名を佐助は聞いたことがなく、部下を使って調べてもなんの情報も出てこなかった。

女性の中でも平均的か少し低いくらいの身長。
年頃は幸村や政宗と同年代だろうか。落ち着いた性格故か時折はっとするほど大人びて見えるものの、その顔立ちは少女と呼んで差し支えないようにも見える。
体つきは華奢ではあるが、落馬した伊達政宗の下敷きになっても怪我一つしなかったことから考えてかなり鍛えてはあるらしい。
体重を全く感じさせない身軽さとすばらしい身のこなしを見せ、かと思えば茵から脱走を試みる伊達政宗をあっさり投げ飛ばす胆力も持ち合わせている。
武器は基本的にクナイ。腰には小刀もあるが、滅多に抜かないようだ。
全身を黒でまとめ、上杉のくノ一とは違い露出は全くない。
仕事中は口元を黒の布で覆うため、肩口まである黒髪とも相まって宵闇には恐ろしいほど自然に馴染むことが出来る。

本気で潜んだ佐助に気づくことのできる者はそういない。
佐助の部下の中にさえ、それほどの手練れは片手の数もいないのである。
ところが百合はあっさり佐助の気配に気ついたあげく、昼には見事にこちらをまいてみせた。
そして何より佐助の興味を惹いたのは、伊達政宗が馬から落馬した際に応急処置の一環で見せた青い光。
バサラ技とも違う、不思議なその光が伊達政宗の身体を包み込むと片倉小十郎が驚きの表情を見せた。離れた木の上にいたために詳細はうかがえなかったが、近くに居た幸村曰く出血が見事に止まったように見えたという。
松永久秀が仕掛けた爆発から己が身だけでなく三人もの人間を救ってみせたことからしてただの忍でないことは明らかだ。

(まったく不思議なお嬢さんだよ)

心底邪魔そうにこちらを見上げてくる百合の黒曜石を磨いたような真っ黒の瞳を覗き込みながら、佐助はすっとその瞳を細めた。




もし伊達軍の忍だったら 四

佐助ちょう難しい!
えーっと、ユリちゃん、佐助にストーキングされるの巻でした。
基本的に佐助は忍として何でも疑ってかかる子だと思っているので、思う存分に怪しんでもらおうと思ったのですが。なんか書き切れなかった感が…。うう。

ユリちゃんが気配を読むのに長けているのは幼なじみがアレだからです。(設定参照)
もともとが暗殺者ギルド出身ですからねー。忍ではないけれど、まあ似たようなもん。
でも彼女は本来護衛向きの子です。
政宗の黒脛巾組で守り頭をやっているようです。
黒脛巾組の長ではありませんが、政宗の護衛役のトップではあるのでけっこう地位は上のはず。
2012.7.27