※取引期間中のどこかだと思われます。 ※作者はDS版とPSP版のカーティスルートくらいしかプレイしてません。 ※偽物注意報発令(特にカーティス) ※こんなの○○じゃない!と思ったら即ページを閉じて記憶を消去することをオススメします。特にカーティス。苦情の類は勘弁してください。作者が一番こんなん違ぇええええええええ!と思ってますから…orz ユリの作った朝食はどれもおいしかった。 修業時代に世話をしてもらったというチェイカが絶賛していたからどれくらいおいしいのかと思っていたのだけれど。 プロの料理人のような、全て計算しつくされた――“完璧な”おいしさというよりは、家庭的な、どこかむらはあるけれども“手作り”であるがゆえのおいしさ。 それがものすごくおいしい。 朝食を既に城で済ませてきたはずのアイリーンでさえ、ついうっかりおかわりをしてしまった。 先ほどの部下達がサンドイッチを奪い合っていたのも頷ける。 「ねえ、ユリ。チェイカって知ってる?」 食後のお茶を飲みながらアイリーンは尋ねた。 ちなみにカーティスはというと、食べ終わってすぐにアイリーンをユリに任せると“今日の仕事”を片付けてくるからとどこかへ行ってしまったのでいない。 ユリは空になった皿やスープの入っていた鍋を大きなバスケットにまとめて詰めながら、チェイカね、と頷く。 「カーティスの弟子の一人でしょ? 女性の弟子って珍しいから覚えてる」 「女性の弟子はとらないの?」 「この世界ではね、どうしたって女の方がいろいろと劣るから。全くとらないってわけじゃないけど、うちのギルドでは基本的に引き受けないの」 どうやらカーティスの口癖は“女は育たない”らしく、それは前任のギルドマスターも同じだったようだ。 では、ユリはどうなのだろう。 事前に耳にした情報では、ユリはこのスラム街で――このギルドで育ったらしいと聞いたのだが。 しかも、その実力はカーティス=ナイルに勝るとも劣らないと。 ……まあ、そこらへんにあまり深く突っ込むのはやめておこう。 まだ出会って数日と経っていないし、今はチェイカの話題の方が気になる。 「チェイカがどうかしたの? あの子いま、あなたの守り役頭なんでしょ」 「やっぱり知ってたんだ。そうなの。それでユリの話題がでてきたときに、ご飯がおいしかったとか、あのギルドの連中と比べたらものすごく優しかったとか、でも実力はカーティスにも負けないくらいすごいとか、カーティスに真正面から突っ込みを入れられるのはユリだけだとか、いろいろ聞いたから気になっちゃって」 「あー…」 ユリは一瞬遠い目をした。 まあ、だいたい間違ってはいない。 ご飯がおいしいのは…まあ、今までに取り立てて文句を言われたこともないのでそこそこだとは自負している。 実力も、確かにカーティスと張るだろう。互いに得意分野は違うけれど、本気で闘ったら互角にやりあえる自信はある。 真正面から突っ込み。うん…なんというか…。付き合いが無駄に長いせいか、互いに容赦ない物言いはする。他人なら手が滑ったとうっかり刺されかねないようなことを言っても殺されない程度には遠慮の無い間柄であるのは事実だ。 だけれども。 「優しいってどういうこと」 「え、修業時代に一番優しかったのはユリだったって言ってたわよ」 途端にユリの顔が渋面になる。 苦虫を数匹噛み殺したような顔で、言った。 「それはたぶん、わたしがチェイカの修行には関わっていなかったから。修行の面倒まで見ていたら、きっとカーティスと同じように鬼だの人でなしだの言われてたと思うよ」 「……そうなの?」 「そうなの」 暗殺者ギルドの修行…訓練は、かなりハードだ。 基本的に途中で命を落としてもかまわないというスタンスでいくので、脱落者という名の死者など普通に出る。 ユリはあまり新人や弟子の修行には関わらないため、指導者としての顔を見せることはほとんどない。 それを“優しい人”と勘違いされることがしばしばあるが、そんなものはただの幻想だ。 事実、かつてユリが短期間とはいえ本格的に教育に携わっていた時には訓練生から惜しげも無く“人でなし”の称号を贈られていた。 ユリとてカーティスと同じ人種に違いは無いのだ。 「ところで、プリンセス。こんなところでのんきにお茶飲んでていいの? お金稼がなきゃいけないんでしょう」 「…やっぱりそれも知ってるのね」 「まあ、だいたいは」 アイリーンのカップに新たなお茶をつぎながら、ユリが話題を変えてくる。 やはりというか、ユリは機密情報であるはずの自分と国王夫妻との取引のことを知っているようだ。 アイリーンはテーブルに突っ伏した。 「うう。カーティスに洞窟まで付き合って貰おうかと思ったんだけど…。なんか、忙しそうよね」 「そうね。昨夜、侵入者があったから」 「え、そうなの?」 「そうなの。昨日、酒場であなたと目が合った後にさっさと帰っちゃったのはそのせい」 昨夜酒場でユリとカーティスと目が合った後、少しシャークと話してからまた二人に視線を戻したときには既に二人の姿はなかった。 ずっと疑問に思っていたのだが、どうやらギルドに侵入者があったのを察知してスラム街に戻ったということらしい。 「……大丈夫だったの?」 「ネズミがギルドに辿り着く直前に追いついたし、ちゃっちゃと生け捕りにできたから大丈夫。今朝はその片付けとか、首謀者の洗い出しと報復とかいろいろと、ね」 何しろ稀代の暗殺者カーティス=ナイルのギルドを狙ったのだ。 それ相応の報復は当然のことだろう。 「じゃあ、今日カーティスを誘うのは諦めるわ。忙しいだろうし」 「おや、ずいぶんと物わかりが良いんですねプリンセス。ちょっと意外でした」 「っカーティス! 気配を消して後ろに立たないで!」 思わずカップを取り落としそうになってしまった。 ユリは気付いていたのかアイリーンの手から素早くカップを取り上げて、幼なじみを咎めるように言う。 「カーティス。わざと驚かさないの」 「すみません。面白そうな会話が聞こえてきたものですから。で、プリンセス。僕に同行して欲しかったんですよね?」 「そうよ。洞窟に行きたくて。でも忙しいんでしょ?」 「ええ、まあ。残念ながらすぐに済みそうにはないんですよね。ということで、ユリ」 あからさまに作ったと分かるうさんくさい笑みを作って、カーティスはユリに言った。 「僕の代わりにプリンセスに同行してあげてください」 「ええぇぇえ!?」 ユリが口を開くより早く叫んだのはアイリーンだ。 思わず椅子を蹴飛ばしてカーティスに詰め寄る。 「あんた、そんな勝手な!」 「……まあ、べつに、わたしは良いけど。プリンセスが良いのなら」 「ほら、ユリもこう言ってますし。彼女は僕より“守る”ことには長けています。それにあなたはずいぶんとユリに興味があるようだ。特に問題はありませんよね?」 「それは…、そうだけど」 アイリーンはユリの方を振り返った。 ユリはどうする?と、あまり表情の読めない顔で訊いてくる。 確かにこれは願ってもない提案だった。 同行者が婚約者候補でなければいけないというルールがあるわけでもないし、カーティス=ナイルお墨付きの人物が付いてきてくれるのなら心強い。 そもそも今日アイリーンがこのスラム街を訪れたのは、確かにカーティスに同行を頼む為ではあったがそれ以前にユリに会いに来たからでもある。 「じゃあ、お願いしても良いかしら」 「もちろん」 ユリは快く頷いた。 じゃあさっそく行きましょうかとさっさと部屋を出ようとする。 「え、もう行くの?」 「時間があまりないんでしょう? それに、太陽が昇りきる前に砂漠を越えた方がいい」 「それもそうね」 本音としてはもう少しカーティスとユリが揃っているところを観察していたかったのだが、仕方が無い。 「行ってらっしゃい」 ひらひらと手を振るカーティスの見送りを受けて、二人は天才暗殺者の家をあとにした。 プリンセスとお知り合いになろう編4
食べ終わったあとの皿やらスープの入っていた鍋やらをまとめたバスケットはあとでカーティスの部下が回収に来て、洗い物当番の人が片付けるのです。(どうでもいい裏話) 取引の詳しいルールは忘れたんですけど(冒頭の王妃との会話シーンは最初の一回目しか見ないもので…)、確か同行者は候補者でなくてはいけないという決まりはなかったですよ…ね? うろ覚えバンザイ!(逃) ちなみに、カーティスの口癖“女は育たない”ですが、クリムゾンのコミックスを参考にしています。 そしてカーティスとカーティスの前のギルドマスター共通のこの口癖は文面通りでない意味もちらっと含まれていたりいなかったり。 しかも、カーティスにとっての意味と前ギルドマスターにとっての意味も微妙に違ったり。 アラロスは妄想の余地がたくさんあって楽しいですね!(ダッシュ) 2012.9.11
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