※取引期間中のどこかだと思われます。
※作者はDS版とPSP版のカーティスルートくらいしかプレイしてません。
※プリンセスの相手は不明。少なくともカーティスではないです。

※いろいろと偽物感満載ですが多めに見てやってください…。






ある日アイリーンは、カーティスが見知らぬ女性と一緒に飲んでいるのを見つけた。
女性と言うべきか、少女と言うべきかは悩むところだが。
こちらからは横顔くらいしか見えないので、小柄な女性ということくらいしかわからない。
肩までのまっすぐな黒髪に、瞳は……ときおりランプの炎がきらりと反射する、あれは黒だろうか?
ギルカタールの国民にしては珍しいくらいに肌の色は白く、薄暗い店内の中、黒っぽい服装や黒髪との対比でことさら浮き上がって見える。
遠目から見る限り、二人はとても親しい様子だ。
どんな関係なのだろう。
気になる。

「ねえ、シャーク」
「なんだ? 姫さん」
「あれ、誰かしら。カーティスと一緒に飲んでいる女の子」

向かいの席でグラスを傾けていたシャークはカーティスとその連れの姿を確認すると、驚いたように目を見開いた。

「ユリじゃねえか。あいついつの間に帰ってきたんだ?」
「知り合いなの?」
「ああ。一応うちの客でもあるっつーか…」

シャークはずいぶんと久しぶりに見る知り合いの姿と目の前のアイリーンとを見比べて、姫さんならまあいいかと言った。

「あれはユリっつって、カーティスの古なじみだ。元暗殺者だったらしいが、今は辞めて諸国を旅して回ってるらしい」
「カーティスの古なじみ? あの子が!?」

アイリーンがユリの小柄な背格好からついうっかり「あの子」呼ばわりすると、シャークはにやりと笑った。実に商人らしい、いやな笑い方だ。
それが様になるのがシャーク=ブランドンという男なのだけれど。

「ユリはカーティスと同い年らしい。つーことはたぶん、姫さんより年上だぜ?」
「そうなの?」

カーティスの年齢は本人さえ知らないのだから誰も知らないのだろうが、少なくともアイリーンよりかは年上である。
思わずアイリーンはこっそり見るのを忘れて思いっきりユリの横顔を凝視した。
確かに落ち着いた表情や仕草は、年上に見えなくもない、かも、しれない。
けれどここから見る限りその横顔は自分と同年代にしか見えないのだけど…。
と、カーティスと何か話していたユリが急にこちらを向き、ばっちりと目が合う。
あ、やっぱり黒い目だ…と思った次の瞬間、カーティス=ナイルの笑顔とも目が合ってしまいアイリーンの背筋に悪寒が走った。
シャークが面白そうに言う。

「バレちまったようだな。ま、せっかくの機会だ。オトモダチにでもなってきたらどうだ? 姫さん、市井の女の知り合いなんか少ないだろう」
「まあ、そうだけど」

この国はそもそも女性の数は少ないし、アイリーンのまわりにいる同性といえば上流階級の子女かメイドくらいのものである。だから、興味はあった。
しかし相手はあのカーティス=ナイルの古なじみだ。
アイリーンの望む“普通”とはやはりかけ離れた人物なのだろう。
それでも目が合ってしまった上にとてつもなく気になっているのは事実であるので、アイリーンは彼らのテーブルへと向かうべく腰を浮かしかけ、そこで二人の姿が消えていることに気づいた。

「……あれ?」





カーティスと酒場で飲んでいたら、どこからか熱心な視線を感じた。
ちらりと横目で見てみれば、どうやら女の子から見られていたらしい。
同じく気づいていたカーティスもその子の方を軽くみやって、おや、と面白そうな声をあげた。

「カーティス。あなた、あの子のこと知ってるの?」
「ええ、まあ。最近よくお会いすることが多いので」

火を近づけたらすぐさま燃え上がるに違いないくらい濃度の高い酒をかるく煽りながら、カーティスは笑みを浮かべる。
これは何かをおもしろがっているときの表情だ。

「彼女はこの国のプリンセスですよ」
「……王族?」
「そうです。しかも、傍系ではありません。なにせ国王の一人娘ですからね」
「世継ぎってことじゃない、それ」

この国の現国王にはプリンスがおらず、跡継ぎはプリンセスただ一人であるということくらいしばらく国を離れていたユリでも知っている。
王女様が高級とはいえこんな酒場に出入りしているとは…。
ギルカタールらしいというか。

それにしても、権力者嫌いのこの幼なじみがそんな人物と知り合いであった方がユリ的には驚きだった。
表情や口ぶりから察するに仕事の相手ではないだろう。
にもかかわらず“最近よくお会いする”とは、きっとろくでもない理由があるに違いない。

「ユリ。なにか失礼なこと考えてません?」

こちらの表情から何を読み取ったのか、カーティスはじと目を向けてきた。
互いに感情や考えていることが表に出にくいとよく言われるのだが、付き合いが無駄に長いだけになんとなく読み取れてしまうものなのだ。

「別に」

軽く肩をすくめて、グラスに口を付ける。
ふと視線が強くなった…というか明らかに凝視されている気配を感じたので、今度は顔ごと向けてプリンセスの方を見た。
目が合った瞬間、相手の顔にしまったという表情が浮かんだのを見て、カーティスがまだまだ甘いですねえと呟く。
それから少し視線をずらせば知り合いの商人の姿も確認することができ、さすがギルカタールの王族。交友関係が真っ黒ねと思った。まあ、そういう国なのだから当然かもしれないけれど。

「っ」

グラスを戻そうとして、ふと走った痺れに思わず手を放してしまった。
幼なじみが危なげなく落下するグラスを掴み、テーブルへと下ろす。
ユリの表情にはカーティスにしかわからない程わずかに緊張が走っていた。

「ユリ? どうしました」
「…たぶん、ギルドに侵入者。複数人いる、かな」

右手の平を見つめたまま、ユリは声のトーンを落として言う。
ギルドに滞在している間、ユリは自分の寝床のあるスラム街に結界を張っている。
これは何か騒ぎがあったときに察知できる程度の至極簡単なものだ。使う魔力はほんのわずかなので、そこらの魔法使いには察知できないだろう。
その結界が今、揺れた。
場所はスラム街の中でも奥の方、ギルドへと通じる道のあるエリア。
結界を察知できるほどの魔法の素養を持つ者はいないのか、ユリの結界を遠慮無く揺らしながらギルドのある方へと移動している。

「戻りましょうか」

にこりと笑んで、カーティスが告げる。
それにひとつ頷くと、二人は不自然にならない程度に素早く酒場を後にした。




プリンセスとお知り合いになろう編1

というわけでプリンセスとお知り合いになろう編1でした。
シャークも結構好きなキャラなのですが、いざ書くとなるといまいち口調がわからず。
もういろいろとねつ造し放題です。すみません…。
2012.8.11