※ユリちゃんはスラム街出身。カーティスとは幼なじみです。 ギルドには自由に出入りできますが、暗殺者業はやっていません。 ※筆者は金貸しコンビ大好きですヨ! 「ねえ、君。なに?」 「……は?」 久しぶりに王都ギルカタールに帰郷してぶらぶらと通りを歩いていたら、 変な男にいきなり腕を捕まれた。 金髪に、血を塗り固めたような赤い瞳、人間離れした美貌。 ずいぶんと背が高く、体格の良い成人男性だ。 ……外見は。 「なにって、何が?」 「だから、君のその魂。なに?」 「…………」 うわめんどうなのに捕まった。 ユリの眉間に思いっきり皺が寄る。 さてどうやって切り抜けようかと思案していると、金髪の男の背後から底抜けに明るい声が聞こえてきた。 「おーい、ミハ〜。なーにやってんだ?」 「マイセン」 “ミハ”と呼ばれた男はそれまでの無表情からいっぺんして花でも飛び散りそうな笑顔になった。 ユリの二の腕を掴んだまま勢いよく振り返る。 当然ユリも引っ張られて蹈鞴を踏んだ。 「ってお? その子誰? まさかナンパか、ミハ!」 「違うよマイセン、この女――」 「ちょっと、そこの頭軽そうな茶髪」 「!」 金髪男の言葉を遮ってやると、ものすごい形相で睨まれた。 が、そんなものに脅えるような神経は持ち合わせていないので、無視してマイセンというらしい茶髪へと話しかける。 「あなたこの金髪の飼い主? さっさと引き取って。腕痛いんだけど」 「ん?ってミハ、駄目だろ女の子には優しくしないと!」 マイセンが金髪男の腕に触れると、金髪男はあっさりと放した。 先ほどまで骨が折れるのではないかというくらいの怪力で掴んでいたくせに。 「ごめんなー。ミハは手加減とかできないからさあ」 「別に。それじゃ」 「え、ちょっと待……」 次の瞬間、ユリの姿は二人の前から消えていた。 「あちゃー逃げられた。逃げ足早いなあ。ミハ、なんだったんだ?」 マイセンはユリを引き留めようとあげかけていた手を下ろして隣の金髪男――ミハエルを見る。 ミハエルは眉ねをぎゅっと寄せたまま、先ほどまでユリを掴んでいた右腕を見つめていた。 「あれはただの人間じゃないよマイセン。変な魂を持ってた」 「…ふうん? 人間じゃないのか?」 「ううん。アレは人間だよ。でも、違う。人だけど人じゃない…。それに、どこかで見た気がする」 ミハエルは記憶をたぐるような仕草のあと、駄目だ思い出せないと頭を振った。 その珍しい姿にマイセンは琥珀色の瞳をすっと細める。 「ふーん。ま、ここの住人っぽい服装だったし、そのうちまた会えるだろ。それより酒場行くぞ、ミハ!」 「待ってよマイセン」 さっさと歩き出してしまったマイセンの後を追って、ミハエルも歩き出す。 一度だけ先ほどの女がいたところを振り返るも、そこには何もなかった。 「…ちょっと焦った」 「なにがですか?」 持ちうる限り全力で街の反対側まで移動したユリは捕まれた腕をさすっていた。 つい零れた独り言に思わぬところから返事が返り、手を止めて振り返る。 そこには久しぶりに見る幼なじみの姿があった。 「カーティス。久しぶり」 「久しぶりですね、ユリ。で、なにに焦ったんですか? あなたがそう言うのは珍しい」 カーティスは隣に並ぶと、ちらりとユリの腕を見る。 ユリはなんでもないと肩をすくめると、ふと気になって聞いてみた。 「カーティス。“ミハ”っていう金髪と、“マイセン”っていう茶髪のやけに背の高いうさんくさそうな二人組に心当たりは?」 「“ミハ”と“マイセン”?」 うさんくさい二人組。 そのキーワードから連想するのは、つい先日プリンセスの知り合いでもあると判明した男二人の顔。 まさかと思いつつもユリの方を見れば、知ってるならさっさと吐きやがれと黒い瞳が雄弁に語っていた。 「おそらくミハエル=ファウストとマイセン=ヒルデガルドですね。 ミハエル=ファウストの方は出自不明ですが、マイセン=ヒルデガルドはルーンビナス王弟の息子です。 今は王宮に客人として逗留しているようですよ」 「ずいぶん詳しいのね」 「少し前に絡まれたことがありまして。調べたばかりだったんですよ」 「ふうん」 ミハエル=ファウストとマイセン=ヒルデガルドね。 口の中で繰り返して、思いっきり渋面になる。 明らかに不機嫌そうな様子にカーティスはおや、と首を傾けた。 「ご機嫌斜めですねえ。彼らに何かされました?」 「ミハエルに腕を捕まれた」 「は?」 ユリは捕まれた部分をさすった。 ミハエルに触れられた瞬間の、あの感触。 二人の持つ異なる力がぶつかり、ビリビリと肌が痺れた。 ユリだけでなくミハエルの方もそれは同じだったろうに、決して放そうとはしなかった。 おそらく彼らはユリが普通の人間とは少し違うことに気付いただろう。 まったく厄介なのに絡まれてしまった。 「ミハエル=ファウストに会ったんですか。彼、強かったでしょう?」 どんどん気分が下がっていくユリとは対照的に、カーティスは上機嫌だった。 赤銅色の瞳が喜びに輝いていて、どうやら妙なスイッチが入っているようである。 「……確かにあの男は強いでしょうね」 なんたって悪魔だし。それも高位の。 そういった方面が大嫌いな幼なじみの手前はっきりとは言わないが。 「カーティス、まさか、あの男をギルドに引き入れようなんて考えてたりする?」 この幼なじみは暗殺者になれそうな強い人間を見つけるとスカウトしようとする癖がある。 癖というか、それを自分の代わりに据えてさっさと引退しようとするのだ。 カーティスはよくわかりましたねぇとにこやかに笑っている。 冗談じゃない。 「アレは駄目。ギルドマスターどころか、暗殺者にもならないと思う。なれないと言うべきか…」 さてどう説得したものか。 ユリはいくつかの言葉を慎重に並び立てた後、とにかくあの男は絶対に駄目。諦めなさい。その一言で有無を言わさず締めくくった。 ユリは暗殺者ギルド育ちとはいえ、とうの昔にここを出て行った身だ。 それでも変わらずスラムやギルドへの出入りを許されているのは、ひとえにユリがギルドに対して一切口を出してこないからでもある。 その彼女が珍しくも強い口調で反対したことにカーティスは驚きつつも頷いておいた。 この子がこうして何かを強く主張するときは、とりあえず逆らわないでおくのが一番良い。 それを受け入れるか入れないかは、また別の話だけれども。 「そういえば、彼らはこの国のプリンセスとも知り合いのようですよ。 時々酒場にも出没しているようですから、会いたくないのなら気をつけた方が良い」 「……はやくこの国から出て行ってくれればいいのに…」 ミハエルと共にいたあのマイセンという男も、膨大な魔力を持っていた。 あの悪魔だけでなく、プリンスという身分にも関わらず悪魔なんぞを連れ歩いているような酔狂な男にも関わりたくはない。 スラム街の方へと並んで歩き出しながら、ユリはこの時期に帰省するんじゃなかったと激しく後悔していた。 金貸しコンビとの邂逅
というわけでアラロスです! 一番好きなのはカーティス。金貸しコンビももちろん大好きですよ! ユリちゃんがミハエルに対して渋い顔をしているのは、時渡りの一族(詳細は設定参照)としての魂(普通の人間とはちょこっと違うのです)をすぐに見破られたからです。どうせわかるヤツなんてそうそういないだろうと油断していたら悪魔が釣れたと(笑) 魂のカタチを見抜く悪魔はある意味時渡りの一族にとってはやっかいな存在。 というわけでミハエルの扱いが若干悪いですが、愛はありますので!(必死) ちなみに赤い髪の某メイドさんがギルカタールに居る時期はユリちゃんも王都にいました。 もしかしたらミハエルとニアミスしてるかもしれないですね。……たぶん。 ところでマイセンの瞳の色は結局何色なのだろうか…。 ファンブックやスチルを見てもイラストによって色が違いますよね。 紫っぽかったり、グレーっぽかったり、茶色っぽかったり。 とりあえず、某スチルだと琥珀っぽい色に見えたので琥珀色としておきましたが。厳密に言うと琥珀の色と“琥珀色”は微妙に違うのでちょっともやもやするんですが、他に良い案が無かったのでとりあえず。 他のキャラもけっこう揺れている人が多いですよね。ロゼさま統一してくださいorz 2012.7.31
|