――――――――それは、泡沫の邂逅。



























20 追憶の夢






淡いまどろみから引き上げられるように、は覚醒した。

「寝て、た‥‥?」

慌てて飛び起きて時計を確認する。

どうやら寝ていたのはほんの十数分のことのようだった。

「何か夢を見ていたと思うんだけど」

どんな夢だったのか、忘れてしまった。

懐かしい夢だったような気がする。


外は、雨。

ザァザァと降り注ぐ雨音が耳に心地良い。


「‥‥って、火つけっぱなしだった」

鍋に火をかけたままだったことを思い出してあわててキッチンに入る。

火を止めて鍋の蓋を開けると、食欲をそそる良い匂いが広がった。

スプーンで少しすくって味見をしてみる。

「うん、いい味」

今夜はカレーだ。

大量に作っておけば数日はもつし、

作り方もそれほど難しくないこの料理はの得意料理だったりする。



「‥‥‥‥‥‥?」



ふっと。

沸いたイメージ。

いや、イメージというよりはデジャヴだろうか。



耳に届いている雨音と、カレーの匂い。



「‥‥あ、」

思い出した。

一度きっかけさえつかめば、夢というものは案外思い出せるもの。

どんな夢だったか――、誰がでてきた夢だったのか。




いつの頃の、夢だったのか。







全て、思い出す。







「そっか、ちょうどこの時期だったっけ」

ぐるぐるとカレーをかきませながら記憶を掘り返してみる。

意図的に忘れようとしたわけでもないのに

全く意識に引っかかることのなかった記憶たちは、

だがしかし鮮明に思い浮かべることができた。

「あれ以来、他の裏家業の人たちには全然会えてないんだよね」

完全に表の人間としての生活を選んだのだから、当たり前のことではあるけれど。














――――あのときに出会った、自分と似たにおいをしていた少年。






どこが似ていたのかはわからない、

けれどなんとなく惹かれたような気がした、

不思議な出会い。









あの一瞬の邂逅は、かつての自分と完全に分かたれる最後のチャンスだった。













そして自分は、そのチャンスを生かす方を選んだ。





















――――あれから二年がすぎた。







彼とはもう、会っていない。



そしてこれからも、会うことはないのだろう。


















「‥‥お兄さんのカレー、上達したかな」





20 追憶の夢 end.


ラストの4文は連載当初から決まっていたのですが、そこに持っていくまでにどうしようかとかなり苦戦した最終話。
まさかこんなに長く書くことになるとは思っていなくて、自分でもびっくりしています。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!