15 私が今ここにいられるのは「ちょっと! あんたねぇ、午前中何してたのよ?」 午後から行った大学。 校門のところで仁王立ちする友里子から熱烈なお出迎えを受けた。 「ちょっと行きたくなかっただけよ」 「それで休んでいいのなら、生徒の半分以上が毎日欠席ね」 友里子は据わった目でじとっと睨んでくる。 勉学に対して真面目な友里子は入学して以来サボりなどほとんどしたことがないのだ。 「パフェ奢るから」 「言われなくても、当たり前でしょう?」 当然、と言いながら友里子はルーズリーフを数枚取り出した。 私が午前中にサボった座学のノートだ。 私は友里子と違って不真面目な生徒なので、よくお世話になっている。 「さ、早くお昼食べに行こう。どうせまだでしょ?」 今日の日替わりランチ好きなメニューなのよ、と友里子は嬉しそうに言った。 私は大学が好きではない。 保護者とも言える人物との約束があるから行っているだけで、 歌うのは好きでも、音大で学問としてやるのは好きじゃない。 よく色んな人にプロになれるよ、と言われるけど、私はプロになる気はあんまりない。 本当に、やる気がないのだ。 大学なんてどこでもいいと言ったら保護者が勝手にくじを作って、それで決まっただけ。 もしかしたら理系の大学に行っていたかもしれないし、短大だったかもしれない。 だから入学初期は今よりも欠席が多くて(それでもちゃんと計算していたけど)、 ノートだってほとんどとらなかったから実技以外の成績だって悪かった。 でも今はそれなりに真面目に通っている。友里子に出会ってからだ。 ピアノ専攻で有望視されていた友里子と組まされることは多くて、 面倒見が良い彼女が私を引っ張るようになってから。 友里子のピアノは好きだ。 だから大学で歌うのは大嫌いだったけど、 友里子のピアノと合わせて歌えるから多少は好きになった。 今大学に行っているのも、友里子がいるから。 過去の私から見たらちょっと考えられないことだけど、でもそれも悪くないと思う。 どうせ、もうもとの暗がりには戻れないのだ。 戻れないというか戻らないというか、 戻ったら怖い人が来るからそれだけは勘弁して欲しいというか。 だから私をこちら側に引き留めておいてくれる友里子には感謝している。 本人には絶対に内緒だけど。 ありがとう、友里子。 15 私が今ここにいられるのは end.
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