10 路地裏の凶暴






夕方。

マンションの近くをぶらぶらしていた人識は薄暗い路地を見つけた。

この町は整備されているので、こういった路地は少ない。

お昼は適当な店で食べたし、ゲームセンターも飽きてしまった。

表の道はほとんど歩き終わり暇だったので、人識は軽い足取りで路地に入っていった。







路地の入口は細いが、中はそれほど狭くはなかった。

缶などのゴミと、澱んだ空気。

学業都市として発展したこの町の、残された闇。







薄暗い中を人識はいつもと変わらぬ速度で足を進める。

十数メートルほど進んだあたりで、四角く切り取られた空間にでた。

いくつかの建物がちょうど離れている場所に広がる、

普通の人間なら決して近付かないであろう小さな箱庭。

そしてそこには、

「誰だテメェ」

ガラの悪い男たちが数人いた。

「ここは俺たちの溜まり場なんだよ。ガキはとっとと消えな」

鉄の棒を持った男の一人がそう言って人識の前に立った。

人識は何も言わない。

唇の端を笑みの形に吊り上げて、男を見上げるだけだ。

「オイ、聞ィてんのか?」

座り込んでいた別の男が、釘バットを持って立ち上がった。

それを見て、人識はかははと笑う。

「同じ釘バットでも、大将のとはやっぱ違ぇな」

「あ?テメェ、何言ってやがる」

目の前に立った男が人識に向かって手を伸ばす。

人識は笑ったまま動かなかった。

いや、動かなかったように見えた。




男たちには。













ごとり。












「あ・・・?」

重たげな音とともに腕が軽くなって、男は自分の腕を見た。

ひじから先がない。

落ちた腕は落下とともに指、手のひら、手首とバラバラになった。

「・・・・・・え?」

自らのバラバラになった腕をみて男は一歩後ずさった。

しかし足に違和感。








ずるり。





膝がずれた。









「あ・・・・・・、あ、あ、あ・・・・・・・・・!!」

言葉にならない悲鳴をあげながら残った手で顔に触れようとした男は、

だがしかし途中で動きを止めた。

一瞬の後、血を吹き出しながら大小様々な塊となって崩れ落ちる。

「う、うわぁ!」

一番近くに立っていた釘バットを持った男の足に転がってきた頭部が当たって、

男は無様に悲鳴をあげた。

「テ、テメェ、何しやがった!」

仲間の悲鳴で我に返った他の男達は引きつった顔でそれぞれの武器を握りしめ、

人識へ突進する。

人識は一歩踏み出して、それから男達の間をふっと通り抜けた。

振り返った男達が最後に見たのは、

今まで自分たちがいた場所に立っている人識の姿。


笑みに歪んだ唇。











ぐらり。











言葉を発する暇もなく、皆一様に崩れ落ちた。

赤い液体が飛び散る。











べしゃり、という音。











「そっちが突っ掛かってくるのがいけねェんだぜ? 俺ァ手クセが悪いんだ」






かはは――と笑って、人識は立ち去った。








足取りは、先ほどと変わらず、軽い。







10 路地裏の凶暴 end.


もっとこう、生々しくかつさらりと書きたかったんだけど‥‥。
さっぱりできてない。要精進。