09 の考察






友里子がぼーっとしてる。

私が人識くんを拾ってきたことが気になるみたい。

たしかに普通の人間なら絶対に拾わないけれど。

人識くんは一般人じゃないだろうし、ね。



彼はきっと昔の私と同じ"こちら"側の、

つまり友里子や普通の人から見て"向こう"側の人間。

勘でしかないけれど、彼の笑い方をみるたびに私はそう思う。

あんな笑い方は、どこまでも底が見えない暗闇の瞳は、

間違いなく人を殺せるヒトのものだから。


少し、人識くんがうらやましい。

私は取り返しの付かないくらいに"向こう"側の人間だったくせに

今は"こちら"側で生きている半端者。




彼は人を殺せるだろう。

私は人を殺せない。




殺せるけど殺せない。




それが彼と今の私の絶対的な違い。

彼と私の立ち位置を分ける、ある意味致命的な。






だから私は彼を拾ったのだろう。


人をそうであるかのように殺す人間を、

かつての私によく似た人間を、側で見ていたかったから。





私がもう戻ることができない世界に、少しでも触れていたかったから。





09 の考察 end.