08 友里子の考察






が少年を拾ってきた。

確かに昔から弱っている小動物を見ると拾って帰る癖があったけど、

話を聞く限りその少年はどうも違うような気もする。

何よりあの人間嫌いのが人を拾った。

必要最低限の人付き合いしかしない、あのが、だ。

絶対おかしい。




などということをあたしはずっと考えていた。

ただ今、座学の真っ最中。

当然、ノートは真っ白。

「ありえないわ・・・」

「何がありえないの?」

「あんたが人を拾ったってことよ」

「そう?」

隣りで律儀にノートをとっているが首をかしげた。

「あんた人間嫌いでしょ」

「嫌いってほどでもないけど」

「でも好きではないでしょ」

「あたり」

はぁ。

なのになんで拾うかなぁ?

溜め息をつくと、がくすくすと笑った。

「そんなに変?」

「絶対おかしいわ。熱でもあるんじゃないの」

「ないと思うけど」

自分の額に手をあてて、は言う。






「似たようなにおいが、したのよね」

「え?」

しばらく無言が続いた後、突然が言った。

におい?

「同族っていうか。私なんかより彼の方が濃いけれど、だからこそわかったっていうか」

「・・・・・・つまりはその子も人間嫌いってこと?」

よくわからない。

「んー・・・。そう考えた方がわかりやすいならそれでいいや」

「余計わかりにくいわ・・・」

机に突っ伏して、ちらりと横目でを窺う。

顎に手をやって、は何かを考えているようだった。

こういうときのは本当によくわからない。

何を思ってその考えに至るのか、全く理解できない。

そういうときは少し不安になる。

が、どこか遠くへ行ってしまいそうで。

と同じ場所に立つことはできないんだ、と思い知らされているようで。

あたしは、怖くなる。

「友里子?」

「・・・なに」

「カオが暗いわ」

「ほっといて頂戴」

暗くなったのはあんたのせいだっていうのに。

「友里子」

「だから、なに」

「理解しようとしなくていいからね」

「‥‥‥‥」

あたしはのろのろとした動きでの顔を見た。

は微笑んでいる。

綺麗な微笑みだ。

「他人を完璧に理解することなんてできない。

  私は、隣りに友里子がいてくれればそれでいいの」

あぁ、もう。

そんなふうに言われたら、ぐちぐち悩んでたのが馬鹿みたいじゃない。

そんな嬉しいことを、そんな悲しいことを言わないでよ。



「ん?」

あんたの隣りは、

「あんたの隣りはあたしの特別席だからね」

他人にくれてやるつもりはないわ。

そう言うとは一瞬驚いたような顔をして、それから綺麗に微笑んだ。

その微笑みを見て、あたしは安心する。

はまだここに、あたしの隣りに、いるのだと。





08 友里子の考察 end.