キャバッローネ邸を後にしたヴィーノは、そのまましばらくバイクを走らせて隠れ家のひとつへと来ていた。
ここへ来るのは一月ぶりだったのでだいぶほこりが溜まっているが、少し掃除をすれば済む程度なので、とりあえず目立つ埃を取り除くことから始めた。
日が落ちてしまったのでマットレスを干すことはできないが、とりあえず埃さえ取ってしまえば今晩くらいはなんとかなるし、問題はない。
そもそもヴィーノはもともと今のような綺麗なベッドがある生活よりも根無し草の生活の方が長かったので、あんまりにも堅い場所でなければどこでも眠れるのだ。
ざっと掃除を終えたヴィーノは、とりあえず使えそうな毛布を持って屋根の上へとのぼった。
ネオンの少ないこの町では、ヴァリアーの城ほどではないにせよ星空がよく見える。
そのままごろりと転がって、ヴィーノはアルフレッドが海岸で会ったカナタという少女について考えていた。
カナタ、という名前はおそらく日本のものだろう。
ヴィーノもかつて、同じ名前を持つ日本人と知り合ったことがある。
偶然にもそのカナタという日本人もヴィーノよりいくつか年下の少女で、アルフレッドの会ったカナタと同じ黒目黒髪の少女だったのだが、果たしてこれは偶然なのだろうか。
ヴィーノは日本という国についてあまり詳しくは知らないのでカナタという名前がどれくらい一般的なものなのかは知らないが、なんとなく女性にはあまり使われない名前のような気がした。
ヴィーノは今の父親に拾われるまでは世界中を旅していたので、色んな地域の言語や習慣にそれなりに詳しい自信がある。
その感覚から言うと、名前の響きからしてどうにも男性名のような気がしてならないのだ。
「まあ、俺が会った方のカナタは明らかに表の人間じゃなかったからな、たぶん偽名だっただろうし。アルフのカナタちゃんはカタギの人間らしいから、そっちは親の趣味か? あるいは同一人物、は…でもなあ…そんな偶然ってそうそうないよなぁ」
夜空を見上げながら、様々な可能性を考えてみる。
ヴィーノが会った方のカナタは、とても頭の賢い少女だった。
基本的に人との出会いは一期一会で割り切っているヴィーノだったが、それでももう一度くらい会えたらいいと考える人物に出会うこともそれなりにあって、彼女はそのうちの一人だ。
もっともそれは会えたら良い程度のことであって自分から探し出して会いに行こうなんていうレベルではないのだから結局は一期一会のうちに収まってしまうのだが、ヴィーノ的にはそれで一向に構わなかった。
人は出会うときには出会うし、すれ違うときにはすれ違う。それで良い。
「あー、そろそろ寝るかあ。明日は掃除の続きして、布団干して、なんか食うもの買ってきて料理して。久々に羽のばすとするか」
ぐっと伸びをしてから起き上がる。
まだ若干埃のにおいのするベッドに潜り込んで、ヴィーノはすっと眠りに引き込まれた。
そのさん、隠れ家
2009.11.23
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