「で、そこ掴んでこっちに捻るだろ、そしたらこっちのをくぐらせて、三回繰り返したら結んで折り返す」
「う゛〜」
俺の視線の先では、細めの革紐を持ったアルフが眉間にしわを寄せて唸っている。
アルフお気に入りの海岸で出会ったカナタという少女にプレゼントするためのネックストラップを彼女にたくさん会えるようにとの願いを込めて作っているのだが、いかんせんこのへなちょこは手先があんまり器用ではない。
いや、そこそこ器用ではあるのだが、コツをつかむまでが人よりも少しばかり遅かった。
それでも一度覚えてしまえば平均以上にはなんでもこなせてしまうだけの力を持っていることはよく知っているので、何度も何度も根気よく教えること数十回。
失敗することを見越して大量に買ってきた革紐の三分の二が消費された頃、ようやくなんとかまともに見えるストラップが完成した。
「でき…た?」
「できたできた。前のやつに比べたらすんげえ良い出来じゃん。コレならあげられるんじゃねーの」
今までのはハッキリ言ってかなり酷い出来のものばかりだったが、今回のは子どもの手作り品であることを考えればなかなかに上出来だと思う。
出来上がったストラップをつまみあげて色んな角度から観察していたアルフは、ふと材料の入った袋を覗き込んで言った。
「……革紐ってまだ余ってたっけ」
「あるぜ。まだ作るのか?」
「うん。これもあんまり良い出来じゃないし、できるだけカナタのイメージに合ったのが作りたいんだ」
そう言ったアルフレッドの瞳は真剣で、俺は思わず口笛を吹いた。
青春っていいねぇ。
「昨日、ヴィンが昼寝してる間に海岸に行ってきたんだけど、偶然カナタに会えてさ」
「お、良かったじゃねーの。願掛け効果あったのかもな」
「うん、だからさ。もっと良いの作って、喜んでもらえたらいいなって」
色合いや太さを真剣に吟味しながら新しい革紐を選び出したアルフレッドの横顔からは、いっちょまえの男らしいにおいがする。
ここから先に俺の出番はないなと判断して、俺はアルフのふわふわの頭をぐしゃっとかきまぜた。
「ま、頑張れ。ここまでやっただけの根性があるんだから、お前なら出来るって。じゃな」
「ありがと、ヴィン。帰るの?」
ここ数日、俺はキャバッローネ邸に泊まり込んでアルフにストラップ作りを教えていたんだが、俺的ルールで一週間以上は連続してお世話にならないと決めている。
今日で六日目なので、ちょうどいい頃合いだった。
「おう。ついでにもう二、三日ぶらぶらしてからだけどな。明後日からアレが外泊する予定だから、そしたら戻るつもり」
「イザベラちゃん、相変わらずなんだ」
俺とイザベラの日常を知っているアルフがくすくすと笑う。
「もーほんと勘弁して欲しいよ、あのワガママお嬢さまには。んじゃな、頑張れよ」
アルフの部屋を出ると、キャバッローネの顔見知りの人達からも声をかけられた。
俺はよくこの屋敷に泊まりに来てるからだいたいの人とは仲が良くて、ボスに似て世話好きの幹部たちは皆十一代目予定のぼっちゃんと同じような待遇をしてくれる。
「おっヴィーノ。もう帰るのか?」
挨拶をするためにボスを探していると、ちょうど廊下を歩いているところでばったりと会った。
剣だこだらけの親父の手とはまた違う大きな手のひらで頭をぐしゃぐしゃっとやられて、この人にはかなわねぇなあと思う。
親父たちに聞いた話だとこの人も昔はアルフみたいなへなちょこだったというのが信じられないくらいの大人の余裕を持つ人だ。
「はい。いつも通り突然来てすんませんでした。でもたぶんまた泊まりにくるんで、よろしくお願いします」
「いーっていーって。むしろオレは嬉しいんだぜ。自分の息子にすっげえ仲の良い友達がいて、しょっちゅう泊まりに来てくれるなんて最高じゃねえか」
またいつでも来いよというディーノさんの言葉に笑顔で返して、相棒の大型バイクと共にキャバッローネ邸を後にする。
遠くに見える、この町自慢の青い海に夕日が反射して、心地よい風が流れていった。
そのに、友達
キャバッローネの本邸がある所は海に面した石畳の町なイメージです。
2009.11.23
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