ドン・ボンゴレ十代目沢田綱吉は、自分の守護者たちについて最近いろいろと思うところがあった。
きっかけは雲の守護者、雲雀恭弥に娘がいることが発覚したことだ。
まさに寝耳に水とはこのことで、しかも十年以上もボンゴレどころか風紀財団の部下にすら隠していたというのだから、綱吉の驚きは半端ではなかった。
一応自分も二人の子持ちの身である。
もっと早く言ってくれたら仕事の面でもいろいろと考えたのにと、少し申し訳なくなった。
そこで綱吉ははたと気づいたのである。

もし他の守護者にも子供がいるとしたら?

個性的すぎる守護者たちは個性的すぎるが故に扱いが非常に難しい。
実は綱吉が気づいていないだけで、他にも何か重大なものを隠している守護者もいるのではないか。
いや、絶対にいる。

それから綱吉は、自分の守護者たちを今まで以上に気をつけて観察するようになった。
何しろボンゴレの守護者はとにかく有名すぎるだけに危険も秘密も人百倍あるわけで、ボスという立場上彼らのことはできるだけ把握しておきたいのだ。
あまりプライベートにまで深く突っ込む気はないが、伴侶や子供などというものは守護者たちを狙うものたちから見ればこのうえなくおいしい餌となるためそうも言ってられない。
何かが起きてからでは遅いのだ。

というわけで超直感と観察を頼りに彼らを観察していた綱吉は、ある日己の超直感がビンビン働くのを感じた。
そしてまさに直感したのである。
こいつは何か隠している、と。
もっともその守護者は隠しているものがない方がおかしいくらい隠し事が通常装備になっている人物なので今更という感じもあったのだが、とにかく綱吉はかまをかけてみることにした。
とりあえず当たって砕けろだ。

「なぁ、骸。お前、子どもいたりとかしない?」

我ながらなんともストレートに聞いたものだ。
しかも前ふりも脈絡もなくいきなり。
久々にふらりと本部を訪れた途端ボス直々に執務室へと引きずり込まれた霧の守護者は、一瞬目を見開いた後、しごく楽しげに唇を笑みの形に歪めた。
それが聞きたくて引きずり込んだんですかという問いに無言で頷けば、クフフと独特の笑い声を漏らす。
その表情があまりにも毒気のない本心からの笑いのようなので、綱吉は確信した。
間違いない。ぜったいに、いる。

「クフ、クフフ。まさかそう聞かれるとは思いませんでしたよ。雲雀恭弥の件もそうですが、超直感ですか?」
「うん、まぁね。でもお前も雲雀さんもきっかけがないと全然気づかなかったし。ていうか、否定しないんだ? オレ、絶対誤魔化されると思ったんだけど」
「実は、いつきみにバレるか奥さんと賭をしてましてね。はじめから隠すつもりはあまりありませんでしたし。すべて想定の範囲内です」
「…ちなみに、その賭はどっちの勝ち?」
「残念ながら、僕の負けです」

あの六道骸から負けという台詞を聞くときがくるとは!
綱吉はまだ見ぬ骸の奥さんを心底尊敬した。
いや、そもそも、六道骸の奥さんをやっているだけで充分尊敬に値する。すげぇ。

「で、子どもは?」
「男の子が一人です。いま五歳ですね。今度連れてきましょうか」
「…今日のお前、やけに素直すぎて怖いんだけど。なんかたくらんでないか?」

いつもはのらりくらりとまさに霧のごとくすり抜けるというのに、全くその気配がない。
それどころか連れてきましょうか、とまで言ったのだ。
綱吉が半眼になると、骸はおや、と形のいい眉を上げてみせた。

「失礼ですね、人のせっかくの好意を疑うなんて。雲雀恭弥の娘を早々と呼び寄せた件は聞いていますので、そうなるだろうと思っただけです。それに」
「それに?」

骸は一旦言葉を切った。
それからムカつくくらいに整ったその顔にいっそ眩しいほどに輝く笑みを浮かべて、クフフと微笑む。

「僕と奥さんのかわいいかわいい愛息子ですよ。自慢したいに決まってるじゃないですか」
「そっちかよ!?」

この親バカめ! 綱吉は勢いよく頭を机にぶつけた。
痛む額をさすりながら顔をあげれば、骸はちょうどかかってきた電話に出たところだった。
会話内容から察するにかけてきたのは彼の奥方のようで、かすかに帰りに夕飯の材料を買ってきてというような声が聞こえた。
やっぱり奥さん、すごい。





そんなこんなで雲の守護者に続く霧の守護者のカミングアウトにより、今度は骸の息子のお披露目会が開かれることになった。
ちなみに雲雀恭弥の娘であるもくる予定になっていて、これは相変わらずを生徒に勧誘しようと意気込んでいる赤ん坊の希望である。
もちろん、予定を空けるために綱吉が全権力を総動員して仕事を片付けさせたのは、言うまでもない。

カミングアウト


2008.12.25