「おや、雲雀くんじゃないですか。久しぶりですね」
「そうだね」

ドン・ボンゴレ十代目の守護者を集めての定例会議。
定例、と名がついてはいるものの実際に毎回全員がそろうわけではないこの会議に、今回は珍しく雲と霧の守護者が揃って出席していた。
過去に最悪な出会い方をしている彼らは、別に互いを嫌って同じ席につかないわけではないが滅多に揃うことはない。
単純にどちらもそれなりに忙しかったからそうなっただけなのだが、最初の出会いから十年以上もたった今、さすがの彼らもそれなりに丸くなったのか顔を合わせるたびに険悪な雰囲気になることは少なくなっていた。

「聞きましたよ、娘さんがいるんですってね。アルコバレーノが生徒にしたかったのにとたいそう悔しがってましたよ」
「そういうきみだって、息子がいるんだろ。五歳だっけ? もうきみと同じ髪型にしているの」
「いえ、分け目はまだまっすぐですよ。ベビーシッターの猛反対にあいまして。まあ、あの子は真っ直ぐの方が似合ってるので、いいんですが」

……険悪な雰囲気になる回数自体は減ったのだが、そのかわりこうして側で聞いているものたちを震え上がらせるような会話をするようになった。
オレちょっとトイレ行ってきます、と雷の守護者が慌てたように席を立ち、さっさと別の部屋へと避難した。
ボスとその右腕はまだ執務室の方にこもっているはずで、晴れの守護者は今日は珍しく不参加なので、現在部屋にいるのは雲と霧、それから雨の守護者の三人だけだ。
山本は二人の地雷だらけの会話をまーたやってんのなーと内心苦笑しながら聞いている。
第三者の存在など全く気にしていない二人は顔に笑顔を張り付かせたまま一見和やかに、しかしどことなく緊張感を漂わせながら会話を続けた。

「そういえば、最近おいしいお茶を出す喫茶店を見つけたんだけどね」

ここで雲雀が話題を変えた。
とたんにすっと骸の瞳が細められ、今まではなんとなくでしかなかった緊張の糸がぴん、と張り詰める。

「ほう、そうですか」

ゆったりと足を組んだ体勢のまま、骸は相づちをうった。

「きれいな女主人がやってるお店でね。僕の娘がそこの息子と仲良くなっったんだけど、白い生き物を連れたとってもかわいい男の子でね、名前は優斗くんっていうんだ。どっかの誰かさんの息子と同じ名前だね」
「それはそれは。そういえば僕の奥さんがですね、最近僕の息子にかわいらしいお友達ができたって喜んでいたんですよ。日本人の女の子なんですけど、名前はさんと言うそうです。どこかの誰かさんの娘と同じ名前ですね」

二人はじっと見つめ合うと、ほぼ同時にカップをあおった。
タン、とテーブルに置かれる音がやけに大きく響き、室内がしんと静まる。
それからたっぷり数秒間、互いに視線をあわせたまま微動だにしなかった二人は、ほとんど同時にため息をついた。

「まさかきみの家があんなところにあるなんてね。しかも喫茶店ってなに。お茶はものすごくおいしかったけど、あれはきみの趣味なわけ」
「まさか、あれは奥さんの趣味ですよ。彼女のおじいさまがはじめたお店を彼女が引き継いだだけのことです。それより僕もびっくりしましたよ。まさかきみの娘が常連客になっていたとは。しかもきみまでちょくちょく山本武を連れて来ていると聞いたときは、それはもう驚きました」

まったく、と骸は軽く頭を振ってみせた。
あんなにおいしいお茶をいれてくれるお店は少ないからね、と雲雀が答える。
それからからかうような口調で言った。

「ねえ、きみ、沢田綱吉にはいつまで黙っているつもりなの」
「綱吉くんが気付くまで、です。いつばれるのか奥さんと賭をしていましてね。だから雲雀くんも黙っていてくださいね」
「まあ、いいけど。がお世話になったみたいだしね」

その言葉に、骸がおや、と片眉をあげてみせた。
意外なものを聞いたというような顔だ。

「きみからまともな親らしい台詞が聞ける日がくるとは思ってもいませんでしたよ。明日は槍でも降りますかね」
「それは僕の台詞だよ。あの六道骸が愛妻家で親バカだなんて、誰が想像できると思う?」
「それこそお互い様です。きみがまともに子どもを育てられるなんて、普通の人間なら誰も考えません」

さりげなく酷いことを言い合っているが、しかし最初のような緊張感はさっぱりなくなっていた。
そろそろツナたち来そうだなーと時計を見た山本にならって時間を確認した雲雀が小さく肩をすくめてみせる。
軽くうなずいて応えた骸が足を組み直したその直後、遅くなってゴメンという台詞とともに彼らのボスが勢いよく入ってきた。

「ごめんごめん、ちょっと書類が終わんなくて。ってあれ、ランボは?」
「トイレだそうですよ。きみが来るのがあんまりにも遅いのでそのまま散歩にでも行ったんじゃないですか」
「ていうかお前、また雲雀さんと微妙な空気作り出してたんじゃないだろうな。ランボがここまできて逃げ出すなんてそれくらいしかありえないだろ」
「別に空気が変じゃなくたってあの子は何かあればすぐ逃げ出すと思うけどね」
「雲雀さんまで……」

ズキズキと痛む額を押さえて綱吉はがっくりと項垂れた。
全く、ああ言えばこう言うのだ。
唯一の常識人ともいえそうな山本は、しかし何も言わないまま苦笑しているだけなのできっとあてにはならないだろう。
ああどうして自分の周りにはこういう人達しか集まらないんだろうと真剣に悩む綱吉を見て、子もちの親二人はひっそりと笑った。

内緒話


2009.02.21