「いやー、かわいかったなあちゃん」

愛弟子とその愛娘が帰っていった後、ディーノはそう言ってばんばんと息子の背を叩いた。
叩かれた方のアルフレッドはというと、父親の意味深な視線にうっと言葉を詰まらせる。
それからしばらくうろうろと視線を彷徨わせた後、こっくりと小さく頷いた。
(おおっ?)
そんな息子の様子を見て、これは本気かなとディーノの口元が緩んだ。
二人が帰る間際、ちょっと待っててと言い残してアルフが部屋に駆け戻っていったときはどうしたのかと思ったが、帰り際に渡したプレゼントは結構ポイントが高かったように見えた。
で楽しそうにアルフとしゃべっていたし、これは完全に見込みがないわけでもないだろうとディーノは考えている。
最もあのという少女は年の割にしっかりしているが、なにせあの雲雀恭弥の血を継ぎ、彼自らの手で育てた娘である。
きっと一筋縄ではいかないだろう。

「まあ、気長に頑張れ」

青春だなーと親心に微笑ましくなって、自分そっくりの金髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。





、なに貰ったの?」
「ネックストラップ。カメラにでもつけてって」

帰りの車の中、別れ際に貰った包みを丁寧に開けている娘の手元を覗き込んだ雲雀は思わず口元を緩めずにはいられなくなった。
少しぶかっこうな編み目の、明らかに手作りと思われる革のストラップ。
焦げ茶色の細い革紐で編まれたそれは、確かに自身にも山本が彼女に与えたあのカメラにも合うだろう。
あの少年がどんな顔をしてこの贈り物を作り上げたのかを想像した雲雀は思わずくすくすと笑いを漏らした。

「アルフレッドはいい子だろう?」
「うん」

いくつか年上の少年に向かっていい子という言い方も少し変だと思ったが、確かにアルフレッドはいい子だ。
だからは素直に頷いて、まじまじとストラップを見つめる。
アルフレッドはどうやら、が前にカメラに何かつけようかなと呟いたのを覚えていたらしい。
持ち歩くのに首からさげられたら便利かなと思ってなんとなく言っただけなのだが。
でも、こうして自分のためにわざわざ手作りしてもらったものは、やっぱり嬉しかった。
ずっと各地を点々とした生活をしていたから、今までそういったものをくれるような同年代の友達はいなかったので。
娘の表情からアルフレッドに対する感情があくまで友達止まりでしかないらしいことを鋭く読み取って、雲雀は笑い出しそうになるのをなんとかこらえた。
これは鈍いとかそういう問題ではなく、の中にはまったく恋愛という概念が存在していないらしい。
一般論では理解しているだろうが、自分にもその可能性があるとは全く思っていない。
これではおそらく誰かから熱烈な求愛でも受けない限り、彼女が自分から誰かを愛するようになることはないのだろう。
アルフレッドの淡い恋は最初から前途多難だ。
帰ったら酒でも飲みながら山本に聞かせてやろうと唇をつり上げて、雲雀はさらに車のスピードを上げた。

親子の会話


2009.09.04