「よう恭弥!」
ボスに呼ばれて向かった客間のひとつ。
扉を開けた瞬間に目に飛び込んできたきらきらとした金髪を見て、雲雀は呆れたように肩をすくめた。
静かに扉を閉めて、ソファのある方へと向かう。
「久しぶりだなー。ひと月ぶりくらいか?」
「そうだね」
やけにきらきらとした男の座るソファの向かいに腰を下ろして足を組む。
雲雀の正面に座る男、キャバッローネの十代目ボスであるディーノは、いくつになっても変わらない若々しい笑顔を愛弟子に向けた。
「どうしてここにいるんだい。会談の予定はなかったはずだけど」
どうやらボンゴレのボスは自分が忙しくて手がはなせないかわりに雲雀をここに寄越したらしい。
アポなしで訪れてくるとは、全くこの男は自分と弟分の世界に対する影響力というものを本当に理解しているのだろうか。
「いや、じいさんとこに寄ってきた帰りでな。ついでにツナに渡してくれっておみやげを任されちまったんだ」
じいさん、というのはドン・ボンゴレ九代目のことだろう。
子どもの頃からのつき合いらしいので、ついでにおつかいを頼むくらいのことは、まああり得るだろうが。
「で、おみやげはもう渡したんだけどな。どうしてもお前に言いたいことがあって」
「……なに」
どうせろくなことではないだろう、と呆れをこめて雲雀はきらきらとした琥珀色の瞳を見返す。
相変わらず歴史あるファミリーのボスらしくないへらっとした笑みを浮かべたディーノは、よりいっそうきらきらを増して言った。
「お前、娘がいるんだってな。ツナから聞いてはじめて知ったんだぜ、オレ。なんで教えてくれねーの?」
「言う必要がなかったからね」
「うわでた! おっまえ、相変わらずそーいうとこかわいくねーなあ」
結構寂しいんだぞそれと言って、ディーノはにっと笑った。
「だからな、恭弥。お前、娘つれてうちに遊びに来ねえ?」
なるほど本題はそれか、と雲雀は内心でため息をついた。
いつかはこうなるだろうと思っていたし、自分としても近いうちに連れて行こうとは考えてはいたがこんな形で実現することになるとは。
「まあ、いいけどね。アルフレッドは元気なの」
「おう、元気だぜ。しょっちゅう学校抜け出したりしてる。最近、ちょっと気になる子ができたらしくてなー。カナタちゃんっていう日本人の女の子らしいんだ」
「……ふうん」
雲雀はわずかに目を細めて、しかし何も言わないことにした。
沢田綱吉の超直感には負けるが、雲雀の勘もそれなりによくあたるのである。
外れならばそれでいいし、当たりならば面白いことになるだろう。
父親ゆずりの見事な金髪を持つ少年と愛娘の姿を思い浮かべて、雲雀は唇を笑みの形につり上げた。
「、明日出かけるよ」
洗濯物を取り込んでいたは、帰ってきて早々に一言そう告げた父親の顔を見上げながらぱちぱちと大きくまばたいた。
「どこに?」
つま先立ちになって干していたシーツを取ろうとしていた体勢だったのでかかとを一旦おろしてからこてんと首を傾ける。
同年代の子どもと比べれば高い方に入るものの自分と比べればまだまだ身長の低い娘のかわりにシーツを取り込んでやって、雲雀はさらりと言った。
「キャバッローネの本邸に。あそこの十代目がきみに会いたいんだってさ」
「……跳ね馬が?」
「そう」
残りの洗濯物をすべて室内にいれて窓を閉めながら、は記憶にあるマフィアに関する引き出しをひっくり返してみた。
キャバッローネのボスといえば跳ね馬という通り名で有名な人物だ。
まだ中学生だった父の戦闘能力を大幅にアップさせて以来雲雀を弟子としてえらくかわいがっているらしいのだが、はまだ会ったことがない。
話を聞く限りおもしろそうな人なので、一度は会ってみたい人物のうちの一人だった。
「あっちにも同い年くらいの息子もいるし、まあ退屈はしないと思うよ」
退屈どころか、雲雀の予想が正しければとんでもなく面白い事態になるだろう。
だがそんな父親の思惑を知らないは、わかったとひとつ頷いて洗濯物を別の部屋に運びに行った。
「ただいまー」
「おかえり」
と、そこへタイミング良く山本が帰ってきた。
「ん、ヒバリ、なんかいいことでもあったのか?」
どことなく機嫌が良さそうな恋人の顔を見て、山本は軽く眉をあげてみせる。
それに対してニヤリと唇の端をあげて笑ってみせて、雲雀は明日の予定を伝えた。
師匠来訪
2009.08.09
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