帰り道。
若干の疲労感を滲ませたが車の窓の外をぼんやりと眺めていると、運転席に収まっている山本がミラー越しに話しかけてきた。

「疲れたか?」
「うん、ちょっとだけ」

マフィア界でも屈指のひとたちと手合わせをしたのだから、疲れないわけはない。
あんなに身体を動かしたのはずいぶんと久しぶりだったし、にとってはかなり充実した一日だった。
なぜか重たく残っている精神的疲労感は別として。

「どれが一番疲れた?」

だから、この質問に正直に答えて良いものか、ちょっとだけ迷った。
でも山本さんならいいかと思って、素直に答える。

「……最後、の…」
「ああ、アレか。でも似合ってたぜ。なあ?」

にやにやと笑いながら、山本は助手席に座っている父親の方を振り返る。
目を閉じて恋人と娘の会話を聞いていた雲雀は、片目を開けてそうだねと言った。

「ああいう服を買ったことはなかったけど、とってもかわいかったよ。今度買ってこようか?」
「……お父さん」

からかうように言われて、ちょっとむっとしたらしいが軽く睨んでくる。
雲雀は冗談だよと言って、くすくすと笑った。

「似合ってたけど、ああいう服は機能性に欠けるからね。まあ、これから彼に会うたびにいろいろ着せられるかもしれないけど、我慢してあげなよ。どうせ服代は彼持ちだし」
「それにな、どのみちツナの奥さんたちに会ったらやっぱり着せ替え人形にされてただろうし、遅いか早いかだけの問題だったと思うぜ。ツナの子どもはまだああいう服を着せるには小さすぎるからな」

ドン・ボンゴレの子どもという単語を聞いて、がぱちぱちと大きく瞬きをした。
それからそういえばお子さんがいるんだっけ、というような顔をして、興味津々の表情で後部座席から身を乗り出してくる。

「ツナさんのお子さんって何歳くらい?」
「えーと、上の子が七歳で妹が六歳くらいだったかな、確か」
「そうだよ。お兄ちゃんの方は父親そっくりでね。今は日本の方にいるけれど、そのうち会えるんじゃないかな」
「ふーん」

六歳と七歳か。それはさぞ、かわいい盛りだろう。
あのボンゴレ十代目に似ているのだったら、きっとふわふわ系のかわいい男の子に違いない。
会えるのが楽しみかも、とは思った。
彼女はあまり同年代や自分より年下の知り合いというものが少ないので、実はそれなりの子ども好きとしては是非とも会ってみたい。
ぼんやりと窓の外を眺めながらそんなことを考えている間にほどよい疲労の残る身体は睡魔をどんどん引き寄せて、の思考は夢に溶けていった。

帰り道


2009.02.21