「オレの生徒にならねーか?」

が初めて綱吉やリボーンと対面を果たしたその日。
軽いどころか最後には半ば本気になっていた手合わせが終わった後、リボーンはにそう言った。
は雲雀にもらったというベレッタをケースにしまいながら、特に考えるようなそぶりも見せずに即答する。

「わたしの先生はお父さんだから、ごめんね」

その瞬間のリボーンの表情は、思わず綱吉がフォローにまわろうか考えてしまうほどにショックを受けた顔だった。

「そういうことだから赤ん坊、諦めてね」

おいうちをかけるように言った雲雀の言葉には笑みが含まれていて、どことなく勝ち誇ったような顔までしている。
リボーンはそのあとしばらく落ち込んでいたのだが、もうどうでもいいやと思ってしまった綱吉は放っておくことにした。
を一目見たいがために無理矢理休日を作ってこの屋敷まで来たので、彼には帰ったらやらねばならない仕事がたくさんあるのだ。

「獄寺くん、次の休暇はいつとれそうかな」
「新たな問題が起きず、ヴァリアーや守護者の始末書がいつも通りの量であれば今月中にはとれるかと」
「そう。じゃあ、ヴァリアーと守護者に問題を起こさないようにって言っといてね。何かやらかしたら、しばらく休暇なしでオレの手伝いしてもらうからって」
「ヴァリアーと彼女を会わせるつもりですか、十代目」

少しばかり渋り顔の獄寺が言った。
彼はが綱吉となごやかに会話をしている間でさえ、なるべくあの少女に近づかないように過ごしていたのだった。
理由は特にないが、なんとなく苦手だと感じたのだ。
そんな獄寺とは反対にをずいぶんと気に入ったらしい綱吉は当たり前でしょ、と笑顔で答える。
誰でもうっかり流されてしまいそうになるその笑顔は彼の中性的な童顔さもあいまって本当にかわいらしいが、だからこそ脅威があった。
獄寺は、この笑顔に勝てたためしが一度もない。

ちゃんの実力なら、ヴァリアーとやっても問題はないだろうし。むしろ彼らを手懐けられるんじゃないかなって思うんだ。ヒバリさんも手合わせさせたいみたいだったしね」
「‥‥わかりました」

獄寺はしぶしぶと頷き、さっそく手配を始めた。
まずはあと数時間で次の任務へと行く予定のヴァリアーによけいな問題を起こすなと命令を伝え、それから綱吉のデスクワーク及びパーティーなどの予定を調整していく。

そして二週間後、独立暗殺部隊ヴァリアーとの面会は、思ったよりも早く果たされることとなった。
やっぱ心配だからオレ自分で言うよと言った綱吉が直々にヴァリアーに対して問題を起こさないでねと電話口で命令した結果なのか、彼らは誰もが驚くほどにいつもよりも少ない量の始末書で済ませたのだ。
やはりこれはあの無敵スマイル効果なのだろうか。
綱吉が中学生だったころに一度負けているせいか、彼らはボンゴレ十代目に対しては未だに弱いのである。





そんなこんなで再びがボンゴレの所有する屋敷に招かれたのは二週間後のこと。
今度は山の中ではなく海沿いの、比較的新しく建てられた屋敷だった。
集まったヴァリアーはスクアーロとベルフェゴール、マーモン、ルッスーリアの四人。
ザンザスは九代目に呼ばれて何で俺がと文句を言いながら出かけていったし、レヴィはボスのお供として何も言われていないのに付いていった。
改良が加えられてヴァリアーのメンバーとしてめざましい活躍をしているゴーラ・モスカは月に一度の点検のため現在はメンテナンス中だ。

頑丈に作られた鍛錬場の中、とスクアーロを覗いたメンバーは入り口の方に用意しておいたテーブルでお茶を楽しみながら二人の手合わせを観戦していた。
は剣を扱うのは慣れていないようで、スクアーロが嬉々とした表情で指導を入れながら鍛えている。
スクアーロの表情からしての剣筋はなかなかのものらしく、同じようにテーブル でのんびりと娘の動きを見ていた父親とそのパートナーは次の誕生日には日本刀をあげようかなどと相談していた。

「姫さんすっげー! オレも早くやりたい!」

マーモンを抱えたベルが叫ぶ。
彼はに会った瞬間、姫さんかっわいー!と言ってそのときにも両腕に抱えていたマーモンごとを抱きしめた。
どうやらのことは姫さんと呼ぶことに決めたらしい。
誰が最初に彼女と手合わせをするかでもめたときもオレが一番!と騒いでいたのだが、そこは綱吉がジャンケンねと丸くおさめた。
そうでもしないと、ナイフを投げそうな勢いだったのだ。
興奮するベルの両腕にぎゅうぎゅうと抱きしめられているマーモンはというと、やはり少しばかり苦しいのか顔をしかめてはいるものの、大人しく抱きしめられたままじっとの動きを見つめている。
あの子は幻術の才能はあるのかな、と言っていたから、彼もずいぶんとのことを気に入ったらしい。
ちゃんはゴシックロリータの服が似合うかもしれないわね、と言ったのはルッスーリアだ。
ファッションに関してはうるさい彼はを見た瞬間きらんと瞳を輝かせ、速攻でファッション雑誌やらなんやらをさっそく取り寄せていた。
そしてベルに続いてぎゅっとを抱きしめてサイズを測り、彼女に似合いそうな服を数着選び出すとその場で注文してしまった。
今はちゃんのお肌にキズつけたら今夜は鮫鍋だからね!と叫びながら、動く度に揺れるの黒髪を見て早く結びたいわぁとうっとりしている。
雲雀もも案外嫌そうでなかったので、誰も彼を止める人物はいなかった。

「うおおぉぉぉい! んなことやってっと背中がら空きだぜぇ!?」

いつも以上に大声で叫びながら、スクアーロの鋭く重い剣がの持つ剣へとかち合った。
当然力の差で劣るの細い身体は後方へと弾かれるが、すぐに体勢を立て直し隙を突くように繰り出していく。
手合わせが始まってからそろそろ一時間。
スクアーロの剣技を吸収しながら、の剣術は確実に上がっていた。

PiPiPiPi PiPiPiPi

と、綱吉たちのテーブルに置いてあったタイマーが軽快な音を立てた。
ベルはマーモンを床におろすと待ってました!と嬉しそうに立ち上がった。
一方のスクアーロはまだまだ足んねぇぞぉ!と叫びながらも、一人一時間という約束だったので仕方なく切り上げる。
乱れた呼吸を整えたはありがとうございましたとぺこりと頭を下げて、その小さな頭をスクアーロはやや乱暴にがしがしとなでた。

「姫さーん! 次オレ! オレとやろーよ!」

待ちきれなかったベルが勢いよくに飛びつき、ついでにスクアーロに蹴りを喰らわせた。
おやつとお茶を持って同じように駆け寄ってきたルッスーリアも鉄製の膝で一撃を入れ、お疲れ様とベルにぎゅうぎゅうされているにお茶をさしだす。
お茶菓子をつまんで小さな口元に持って行けば、大人しく口をあけたがありがとうと言って微笑んだ。
少し遅れてやってきたマーモンはベルの腕の中にいるに抱え上げられて、ベルとはまた違う柔らかな身体にぎゅーっと抱きしめられた。

「完全にお姫さま状態だな」

自分の娘のことのように嬉しそうな顔をした山本がハハッと笑う。
雲雀はそうだねと言って、やはり口元に笑みを浮かべていた。

家庭教師、玉砕


2008.03.02