ボンゴレ十代目の雲の守護者雲雀恭弥がつれてきた子どもは、父親と同じ黒目黒髪のずいぶんとかわいらしい女の子だった。
茶色と黒を基調とした趣味の良い服は彼女の黒髪と白い肌を引き立てていて、焦げ茶のブーツは細い両足をさらに強調している。
山本武のあとについて入室した彼女は挨拶のかわりとでも言うようにいきなり発砲してきた家庭教師の弾をいとも簡単にかわし、それどころか最低限の動きだけで赤ん坊の銃をジャムらせ銃撃を止めさせた。
表情はやや驚いているものの、その動きにはいっさいの迷いや無駄はない。
ソファに座りながらことの始終を見守っていた綱吉は、さすがはヒバリさんの娘、と感嘆してしまった。

というその女の子は今、黄色いおしゃぶりを持つアルコバレーノと軽い手合わせをしている。
鍛錬場の壁にもたれてそれを眺めている父親は少し自慢げな顔をして赤ん坊と互角に渡り合っている自分の娘を見ているし、そんな彼のパートナーはオレも剣を教えてみようかなぁとか言ってのんきに笑っていた。
どうやら山本は彼女をこちらの世界にひきずりこむことに少しばかり抵抗があったようなのだが、もうそんなことはすっかり忘れてしまったらしい。
まぁ確かに、彼女を見ている限りもうカタギとして生きていくことは難しそうなので、だったら徹底的に鍛え上げて強くしてやろうという方が合っているのかもしれない。

「ヒバリさん。彼女、うちにくれません?」

つい、綱吉の口をそんな言葉がついてでた。
良い人材を見つけると引き込みたくなるのは、もはやマフィアのボスとしての性だろうか。
自分の息子の嫁さん候補にしてもいいし、純粋に部下としても欲しい。
そしてなにより、あの家庭教師の指導欲を満たすためにはちょうどいいと思えるのだ。
どのみち雲雀恭弥が父親である限りマフィアの世界からは逃れられないのだから、彼女のためにも自分の手の届く範囲に置いておきたかった。

「本人が望むならいいよ。でもあの様子じゃ、赤ん坊の生徒にはならないな。今度ヴァリアーも呼んでよ」
「かまいませんよ。スクアーロあたりは、喜んで剣を教えたがるでしょうけど。そうすると山本と取り合いになるかなぁ」

誰よりも剣の道を愛し、才能のある者を見つけると自分の持つ全てを与えたくなってしまう鮫を脳裏に描いて綱吉は苦笑した。
そんな鮫の技を受け継いだ山本もああ確かにと言って笑っていて、スクアーロが剣を教えるならオレは寿司の握り方でも教えようかなとか言っている。
どうやら、山本は必ずしも自分で剣を教えたいというわけではないようだ。
もともと家事全般のできたの食事のレパートリーなどは山本が増やしたと言っていたから、それで満足しているのかもしれない。

ギィン、と弾が弾かれる音が響く。
リボーンの口元は終始にやりとした形になっていて、よほど彼女がお気に召したようだった。
確かに、の戦闘能力はかなりのものだ。
銃やナイフの扱い方と基礎的な体術などは既に完成されていて、雲雀の言うとおりあとは経験値だけである。
それも、このボンゴレで精鋭たちと手合わせを重ねればあっと言う間に吸収してもっと成長するだろう。

「彼女のこと、ディーノさんは知ってるんですか?」
「いいや、言ってないよ。山本より先に知っていたのは草壁だけだね。もっとも、彼も存在しか知らない程度だったけれど」

ワォ、と思わず心の中で呟いた。
第一の部下でさえ存在しか知らず、恋人でさえ同棲を決めるまでは知らされていなかった。
この雲雀恭弥という男がどれだけ自分の娘に執着しているのかがよくわかったような気がする。
一見すると淡泊に見える父親だが、その実表にあらわさないものの愛情はとても深い。
もしかして、娘のことをずっと言わなかったのはそこのあたりにも絡んでいるのかなと思った。
この男は、本当に大切で他人に壊されたくないものは徹底的に隠し通す主義だ。
他人に恨まれる業を背負っているだけに、なおさら。

「今度、ディーノさんの子どもも呼んでみましょうか。歳が近いから、良い友達になれると思いますし」

大人ばかりではつまらないでしょ、と綱吉は言った。
歳の割にずいぶんと大人びた子だとは思うが、それでも同年代の子どもと遊ぶのは大切なことだ。
あちらの方もマフィア関係者の子どもが多く通う学校に入れたりといろいろ考えているようだったから、ちょうどいい。
雲雀は別に良いんじゃないの、と言った。
そのときの顔が少し嬉しそうだったので、ついでに自分もかつての家庭教師とやりあおうとか考えているに違いない。
まぁ別にディーノの方も雲雀とやりあうのはもはや慣例というか挨拶がわりになっているらしいので、彼の息子やに自分たちの父親の戦いぶりを見せるのにはぴったりだろう。

赤ん坊との手合わせは、ようやく終わったようだった。
よほど楽しかったのかいつも以上に生き生きとした笑顔のがお父さん!と言いながら駆けてきて、勢いよく雲雀に飛びつく。
そんなことは初めてだったのか雲雀は少し驚いたような顔で娘をしっかりと受け止めて、面白かったかい?と聞いた。
全身に擦り傷や切り傷をつくった娘の頭をなでて、と同じくらい満足げな顔をしているリボーンにもお疲れ様、と言う。
きちんと父親の顔をしている雲雀を見て、オレの子どもも早くあれくらい大きくならないかなあと綱吉は少しばかり羨ましく思った。

ボスの考察


2008.02.27