※名前変換をしていると意味の通じない部分が出てきます。
 (雲雀娘のデフォ名は「さくら」です)




同盟内最大最強の組織、ボンゴレファミリーの本部である城には、ボンゴレ十代目とその夫人、何人かの守護者が住んでいる。
今日はボスのもとに守護者が集まって先日行われた長期の抗争についての報告と集まったついでの簡単な近況報告会があった。
守護者が集まるとはいっても約半分はそれぞれの任務で出払っているため、いるのは雨と嵐と雲の守護者だけだ。

「じゃあ、ヒバリさん、山本、お疲れ様でした」

報告書を受け取ってぺこりと頭を下げたのはこの部屋の主、ボンゴレ十代目の沢田綱吉だ。
本来ならば頭をさげる必要などないのだが、この律儀なボスは任務完了のたびにこうしてきちんと礼を言う。
六人いる守護者は全員中学からのつきあいであるので何も問題はないが、小さな家庭教師はやっぱりやめさせた方がいいよなと毎度頭を痛めていた。

「それにしても、さすが二人ともというか。オレ、絶対二ヶ月はかかると思ってたのに、よく一カ月で終わらたね」

ボンゴレ十代目が雨と雲の守護者二人に命じた任務はなかなかにやっかいで、もう一人守護者を増やそうかと悩むほどに難解なものだったのだが、どういうわけか二人とも予想していたよりもずいぶんと早く終わらせてしまった。
もちろん手抜きなどはいっさいなく、文句のつけようがないほどに完璧な仕上がりだ。
結構頑張ったからなと笑う山本と別にとそっけなく答える雲雀を見て、綱吉の脳内で何か急ぐ理由でもあったのかな、とボンゴレ特有の超直感が働く。
獄寺に報告書を手渡すと、少しばかり勝負にでてみることにした。

「そういえばヒバリさん、ここ数年は長期任務になるとすごく早く終わらせちゃうようになりましたけど、それと関係があるんですか?」

レッツかまかけ。
駄目もとでそう聞いてみれば、雲雀の隣に座っている山本が面白そうな顔をして雲雀の顔を見た。
何かを期待しているような目というか、さあどうする?といったような顔だ。
ちなみにボンゴレ十代目の右腕としてときたま空振りしつつもせっせと働いている獄寺はというと、どうせ気分とかそういう問題だろとはなから取り合っていない。
そういうふうに簡単に決めつけるから空振りするんだよ、と心の中で呟いて、けれど口にだしては言わなかった。
頭はいいくせに少々短気な嵐の守護者には、きっと言ったって無駄なことだ。
雲雀は口元だけで涼やかに笑った。
そしてにやにやとしている山本の足を踵で思いっきり踏んづける。
いてぇよヒバリ、という山本は全然痛がっていなくて、むしろ少し嬉しそうだ。
もしかしてこの二人またくっついたのかなと綱吉は思った。
彼らは十代半ばのとき、どういうわけかつきあっていたのだ。
しばらくは離れていたようなのだが、今はどうなのだろう。
なかなか口を開かない雲雀を辛抱強く待っていれば、コーヒーをゆっくりと飲み干した雲雀がようやくちらりと綱吉の顔を見た。
にこりと笑ってみせれば、まぁいいかというようにため息をつく。
そして長い足を組み替えると、なんてことのないように言った。

「子どもがいるからね。さすがに一カ月以上家をあけるのはかわいそうだろ」
「え、子ども?」
「そう、女の子」
「‥‥はあぁぁあ!?」

最後の絶叫は獄寺のものだ。
バサバサっと勢いよく書類の束が手元を滑り落ちる。
慌てて拾う右腕を無視して、綱吉は身を乗り出した。
子どもなんてそんな話、全くの初耳だ。

「やだなぁヒバリさん、そういうことなら早く言ってくださいよ。オレ、知ってたらもっと短期間の仕事をまわしたのに」
「別にいいよ。そんなに手のかからない子だから、問題はないし」
「えー。だって、奥さんにも申し訳ないじゃないですか」

両親が揃っていた方がいいでしょう?そう言えば、雲雀は小さく笑った。
その笑い方がいつもと違うような感じがしたので少し気になって、綱吉は首を傾ける。
山本は笑顔をひっこめてじっと雲雀を見つめていた。
それに気付いた雲雀がうるさいよ、というように顔をしかめて、山本は困ったように眉を下げる。
ようやく書類を拾い終えた獄寺がソファに座った。

「母親はいないよ。あの子を産んですぐ死んでしまったからね」

しまった、と思った。こういう話題はまずい。
綱吉がすぐにすみませんと謝ると、雲雀は別にいいよと言った。

「言わなかったのは僕だからね。言う必要がなかったから言わなかっただけだけど」
「でもよ、やっぱりもっと早く言った方が良かったと思うぜ、オレは」

雲雀のカップに二杯目のコーヒーをそそいだ山本が肘で雲雀をつついた。
さも当然といった体でカップを受け取った雲雀は別に、と答えただけで全然聞いていない。
それどころかからかうような目で少しばかり目線の高い山本を見上げて、挑戦的に言った。

「じゃあきみが言えば良かったじゃないか。どうせ一年前には知ってただろ」
「え、山本知ってたの?」

山本はハハ、と笑って、ん、まぁな、と頷いた。
それから伺うように雲雀へと視線を向けて、雲雀が特に何の反応も示さないことを確認してから核心的なことを言う。

「オレたち一年くらい前から一緒に住んでるから」
「あ、そうなんだ」
「ちょっと待て山本」

綱吉はやっぱりなあとあっさり納得した。
けれど少々うとい獄寺はなんだそりゃと声をあげる。
ちなみにリボーンはというと、最初から一言も発することなく一歩引いた位置から冷静に会話の成り行きを見守っていた。
が、視線は常に雲雀に向けられているので、おそらく何か言いたいことはあるはずだ。

「一年前ってそんな前のこと、お前らなんで十代目に報告しなかった」
「ん、いや、ほら。オレらが一緒に住んでるって言うと、のことも言わなくちゃならねーだろ。ヒバリはまだ言うつもりない感じだったから、まあいっかなーって」
?」

、といえば桜だ。
綱吉も山本も雲雀も出身国である日本の、春の代名詞とも言える植物。
雲雀の子どもは女の子だと言っていたから、じゃあちゃんという名前なのか。
ヒバリさんらしいなぁと綱吉は思った。

「ヒバリ」
「なんだい赤ん坊」
「お前の娘、今何歳だ?」
「十三歳だね」

それまでずっと黙っていたリボーンがようやく口をはさんだ。
エスプレッソをテーブルに戻して、大きくて丸い瞳で雲雀を見上げる。
その瞳の中に家庭教師としての色を見つけて、つい最近まで生徒であった綱吉はあーなんか鍛えたそうな顔してる、と苦笑した。

「強ぇのか?」
「中学生の僕と同じくらいにはね。少し経験値は足りないけれど」

あの子は毎日誰かを咬み殺すようなタイプではないから。
雲雀の言葉に、リボーンの瞳がますますきらめいた。

「ここに連れてこいよ。オレが鍛えてやる」
「いやいや待て小僧。はまだマフィアんなるか決めてねぇんだって。連れてくるのはかまわねぇけど鍛えるとかそういうのは駄目な」
「別に構わないけどね。経験値を積むにはちょうどいい」

見事に意見が食い違った。
山本はいいのかよ、と言って、雲雀は今更だろと答える。
少しばかり無言になって考えた後、結局山本は折れたようだった。
実の父親がそう言っているのだから仕方がないというよりは、まるでそのという少女を思い返してみて確かに今更かと諦めたような感じだ。

「決まりだ。次の定期報告んときに連れてこい」
「わかったよ」

最近教え子が独り立ちしてしまったせいで家庭教師魂をもてあましていた赤ん坊の瞳がこの上なく生き生きとした輝きを放っている。
またしばらく賑やかになりそうだなあと綱吉は思った。


ある日の午後 side ボンゴレ

‥‥あれ? 途中でごっくんが消えた。
2008.02.24