自室で銃の手入れをしていたルイは、着信音を知らせるメロディを聞いて携帯を開いた。
「もしもし? リボーン?」
『ルイ。ディーノが逃げたぞ』
「‥‥え?」
『あのへなちょこ、家に帰るつもりだ。このままじゃ危ねぇ』
「‥‥‥‥」
ディーノが逃げ出した。‥‥仕方がないとも、思う。彼は優しすぎた。この血なまぐさい世界で生きていくには、あまりにも。だが、今このタイミングでというのはまずかった。今、彼の故郷の街はイレゴラーレファミリーに攻められ、状況はたいへんに良くない。九代目は病に倒れ、部下も数もどんどん削られている。とてもじゃないが、今のディーノには危険すぎた。
「あなたはどうするの?」
『オレは馬鹿を追う。いいか、お前は動くんじゃねぇぞ。何があってもだ』
「わかってる」
じゃあな、とそれだけ言って、通話は切れた。
動いてはならない。わかっている。自分はキャバッローネの人間ではなく、いくらディーノの幼馴染みとはいっても、ただの子供だ。
力の入らない手から携帯が滑り落ちる。そのままずるずると座り込んで、ルイは自分の身体を抱きしめた。嫌な予感がする。予感ではない、現在の状況から予測される未来。ほぼ確信された、結末。
「ディーノ‥‥っ」

悲痛な声は届くことなく、闇に消えた。












数日後、キャバッローネとイレラゴーレの本格的な衝突――同時にキャバッローネ九代目の死、ディーノの生存確認及び十代目襲名。

それらの情報を全て同時に聞き入れたルイは、泣いていいのか、喜んでいいのかわからなくて――そして今までは幼さゆえに見逃されていた様々な事柄が強大な音を立てて近づいてくることを確かに感じて、泣いているような、笑っているような、どっちともとれない顔で、電話の先にいる全身傷だらけであろう幼馴染みに、一言だけ、言ってあげた。




「キャバッローネ十代目就任、おめでとう、ディーノ」




懐かしき穏やかな日々2

頬を透明なものが流れ落ちたのは、果たしてどちら?

2008.02.04