「ー。ちょっくら狙撃に行かねぇ?」 久々の自宅でのんびり銃の手入れをしていたは、そんな内容の電話で休日の学校の上に呼び出された。面倒なので制服ではなく私服で行った先には恋人と顔なじみの部下がいて、二台のライフルをセッティングしている。何やってんだお前ら、と少しばかりは呆れた。 「んなもん持ち出して何かあるのか?」 「いや、何もないぜ。リボーンに頼まれてな、山本を狙ってくれだってよ」 「は?」 なんだそれ。は思いっきり顔をしかめたが、ディーノがリボーンに頼まれた内容を細かく聞いてああそういうことかと納得した。つまり、山本を鍛えるためのトレーニング。山本は未だにマフィアごっこだと思っているが、リボーンは彼をボンゴレ十代目の部下にしたいのだ。確かに山本武という人物は素質もあるし才能もある。気持ちはわからないでもなかった。 「しっかしいきなりライフルで狙撃たぁ、リボーンも容赦ねぇな」 「あいつらしいよなー。も撃つか?」 「撃つ。最近ライフルはいじってねぇからついでに調整するわ」 持ってきた愛用のライフルをセッティングして、スコープをのぞく。視線の先では、グラウンドに立った山本がリボーンに渡されたらしいバッドのグリップを覗いて何やら笑っていた。 「よっと」 ターン、という音と共に、ライフルから勢いよく弾が発射される。500メートル先ではうまく弾を避けた山本がいつもの笑顔で笑っていて、綱吉はなにやら叫びながらひどく慌てていた。いやーこいつらおもしれぇ。思わず口元をゆるませて、は山本に照準を合わせた。 「すげぇ山本。あいつ本当反射神経いいのな。カタギにしとくにゃもったいねぇ」 いくら本気で狙っていないとはいえ、山本はやロマーリオの弾をことごとく避けていた。綱吉も必死の形相ですれすれながらもなんとか逃げ回っていて、つい綱吉の方を狙いたくなるである。ついでにどさくさに紛れて本気でリボーンを狙ったりもしているのだが、こちらは一向に当たらない。途中からはムキになってリボーンばかりを狙うの背中を後ろから眺めながら、かっわいーなーと思うディーノだった。 「あーくそ! なんであたんねーんだよリボーン!」 「ー、最初の目的とズレてきてるぞ」 「いいんだよディーノ、あいつにはいろいろと恨みがあるんだ」 ディーノがリボーンの生徒たっだとき、はそのせいでいろいろととばっちりを受けたのだ。おかげでの戦闘能力も上がったりしたが、不機嫌なディーノのなだめ役に回ったりととしてはふざけんなと思うこともたくさんあった。ついでに最近は転入してきた幼馴染みと兄関係でストレスがたまっていたため、遠慮容赦なくぶっぱなせるのはたいへんにストレス解消になる。 と、そこでディーノの携帯が鳴った。着信を見れば、それはかつての家庭教師からだった。あーあ、きたよと苦笑して通話ボタンを押す。は相変わらず執拗にリボーンを狙い続けていた。 『ディーノ。に言っとけ。オレじゃなくて山本を狙えってな』 「無理だぜリボーン。お前が全部避けるから燃えちまって止まらねぇ。ついでにお前に対する恨みがどうとか言ってるし、どうせ当たらねぇんだからやらせてやれよ」 『自分の恋人くらいどうにかしろよへなちょこディーノ』 「あーはいはいわかったわかった。狙撃手が一人減るけどいいよな」 『かまわねーぞ』 通話を切って携帯をポケットへと滑り落とす。夢中になってリボーンを打ち続けるの肩をトントンと叩くと、それに気をとられて一瞬指が引き金から離れた隙をついてライフルから引きはがした。 後ろから腹に腕を回された体勢で、は不機嫌な顔で振り返る。すねた子どものようなその表情に、いくら大人びているとはいってもやっぱ中学生のガキだなぁとディーノは微笑ましく思った。 「何しやがるディーノ。撃たせろ」 「お前リボーンばっか狙ってんじゃねーか。だったら俺と仲良くしようぜ」 「ふざけ‥‥んっ」 頬に手を添えて深く口づける。は抵抗したが、体勢が体勢だけに上手く力が入らなかった。ロマーリオたちは隣でいちゃついているボスとその恋人のことを極力考えないようにしながら山本を狙い続けているが、思考からシャットダウンする瞬間わずかに照準がずれたのは仕方のないことだろう。 重なった唇の隙間から吐息が漏れ、のしかめられた眉間のしわがなお一層深くなる。ねっとりと絡みつく舌を突き返そうとするが、圧倒的にの方が不利だった。幸いディーノの体が盾になってロマーリオたちにはの顔は見えていないが、水音までは隠しきれるものではない。は音に弱いのだ。他人にキスの音を聞かれる羞恥に耐えきれなくなってがりっと舌に噛みつき唇が一瞬離れると、素速く体の向きを変え強烈な膝蹴りをディーノの腹に叩き込んだ。 「いっ‥‥てぇ、、ひでぇ」 「うるせぇ、この馬鹿。屋外で盛りやがって」 「やめねぇが悪い。つーわけでロマーリオ、後は任せた。オレらは先に帰るわ」 「おう。、ボスを頼むぜ」 「はぁ!? ちょっと待‥‥」 抵抗する暇もなく、ディーノはどこからともなく取り出した巨大なタオルケットでをぐるぐる巻きにした。ついでに愛用の鞭で縛って動けなくして担ぎ上げる。は一生懸命抵抗していたがみのむしのようにもぞもぞと動くことしかできず、しまいにはロマーリオに俺のライフル後で持ってきてくれと叫んでそのまま連れ去られていった。 もちろん、ボスと恋人のいちゃつきがなくなったおかげでロマーリオたちの精神的負荷がきれいさっぱりなくなったのは言うまでもない。 「なーツナ。さっきさぁ、屋上でディーノさんがにキスしてたっぽいんだけどあれなんだ?」 「は!?」 山本のトレーニングが終わった後、刀をバッドに戻した山本は綱吉にそう聞いてきた。綱吉といえば、ようやく終わった爆発と射撃に疲れ果てていたのだが山本の言葉を聞いてがくっとうなだれる。あんなところでいちゃついてたのかよ、二人とも! 「いやほら、ディーノさんとは恋人同士だから」 「へーそうなんだ」 観念してディーノとの関係を山本に教えることにした綱吉は、山本の反応がそうなんだの一言で終わったことに驚きつつもほっとしていた。おかしい、とか、嫌悪の反応をされるよりはマシだが、それにしてもそうなんだで済ませてしまう山本はやっぱりすごい。 「てゆうか山本、よく気付いたね、あんなに撃たれてたのに」 「いや、撃ってくる方向を確認しがてら望遠鏡を覗いたらたまたまな」 ちょっとびっくりしたぜー。そう言って、山本は明るくハハッと笑う。 「も撃ってきてたのな。でも途中から別の方ばっか撃ってたみたいだ。どこ狙ってたんだろーな」 も撃ってたんだ‥‥。 本日何度目かもわからない疲労感に襲われて、綱吉はがっくりと肩を落とした。 よおく狙ってHit!
「なーボス。オレたちぜってーヒマ人だと思われてるぜ」「オレはそう思われたいんだよ」が書きたかったのに、入らなかった。悔しい。 2007.12.09
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