お昼休みの屋上。
山本は野球部、獄寺は姉によって拉致され席を外しているこの日、ボンゴレ十代目予定の沢田綱吉とキャバッローネ十代目の恋人雲雀は仲良く弁当を食べていた。ちなみに風紀委員長とその恋人は応接室で一緒にいるはずで、なんだかいつもより危険な空気(つまり、いつ戦いだすかわからないほどに甘いムード)に耐えきれなくなったはついに逃げ出してきたのだ。いまごろ、応接室の中は戦場と化しているだろう。
綱吉はの恋人である跳ね馬ディーノを尊敬しているようで、他に人がいないときはよくディーノの話題を振ってくる。はその期待に応えるために主にリボーンが家庭教師をやっていたときの修行話を中心に話してやっているのだが、たまにはボスとして立派に働いた話を混ぜたりして、綱吉のディーノに対する認識をいろいろとかき混ぜてやっている。おそらく今、綱吉の頭の中でのディーノ像はへなちょこ:ボス=6:4のはずだ。そうなるようにへなちょこ話をたくさん話しておいたから。でもきっとまたディーノ本人に会ったら2:8くらいになるだろうことは予想ができるので、もういくらかへなちょこ話を増やしてもいいかなと思っている。ディーノ本人に知られたら文句を言われそうだが、まぁ別に、いいだろう。
「ねぇ、
「ん? なんだ、ツナ」
もぐもぐと卵焼きを咀嚼しながら、綱吉が聞いてくる。は許可を貰ってその卵焼きをひとついただいた。美味い。兄と自分好みの味加減だった。かわりに自分の弁当に入っているたこさんウインナーをわけてやる。ちなみに、の弁当はキャバッローネのコックがつくってくれたものだ。キャバッローネの人間は皆を子ども扱いするのだが、コックも例外に漏れず、たこさんウインナーやうさぎのリンゴなど幼稚園児のようなお弁当を作ってくれる。まぁ、味付けまで子ども用ではないから、いいのだが。
「どうしてディーノさんを選んだの?」
ウインナーを飲み込んだ綱吉は、母親ゆずりのまあるい瞳で聞いてきた。そこにあるのは純粋な好奇心だけで、だからこそは綱吉にこの手の質問をされてもきちんと答える気になる。弁当を受け取ったときについでにくすねてきたリンゴ丸々一個にかじりついて、はどこから話せばいいのか考えた。うーん、なんとも微妙な質問だ。
「どうしてって言われてもなぁ‥‥。初めて会った瞬間に、こいつだ、て思ったから、としか言いようがねぇなあ」
ボンゴレ風に言えば超直感ってやつ?
のんびりと答えれば、綱吉はごほごほとむせた。ぽんぽんと背中を叩いてやればすぐにおさまったようで、口の中に残ったものを一気にお茶で流し込む。そしてむせたときの名残でやや涙のうるむ瞳を向けると、惚気すぎだよ!と叫んだ。
「それって一目惚れってことじゃん!」
「ん、まぁ、そうとも言う‥‥のか?」
「そうだよ!」
首を傾げるに綱吉は頭を抱えた。無意識なのかよ!自分も恋愛事には疎い方だが、しかし、これはどう見たってヒトメボレというやつだろう。じゃなかったらなんだっていうんだ。
「でもなぁ、向こうは俺を見た瞬間に欲しいって思ったらしいんだが、俺は特にそう思わなかったからなぁ。つーか、あいつの婚約者に脅しまがいのこと言われるまではディーノの側にいたいとまでは思わなかったし。確かにあいつの目はくり抜きたくなるほどに欲しいとは思ったが、それだけだったな」
もはやどこから突っ込めばいいのかわからない綱吉だった。見た瞬間に欲しいと思ったって、ディーノさん、はそのときまだ十歳をすぎたばかりくらいの少年だったんじゃあ。立派な犯罪ですよ。‥‥いや、そもそもマフィアなんだから今更か。しかも婚約者? ディーノさん婚約者いるの? いるのにと恋人? ちょっと待て。なんだそれは。そして脅されて側にいるようになったって。私がいるんだからあんたは消えなさいっていうのが普通なんじゃないのか。逆だろ。ていうか、目玉はくり抜いちゃ駄目です。危ない。やっぱ雲雀さんの弟なんだなぁ。
「ツナ、いいことを教えてやろう」
ぐるぐると頭の中で様々な突っ込みを並べていた綱吉が顔をあげると、にやにやと面白そうな顔をしたの瞳とかちあった。兄とおそろいの漆黒の瞳はやはり兄弟だからか共通する鋭さを持っていて、しかしの方は普段はそれを隠している。
「なに?」
聞き返せば、唇に何かが押し当てられる。が食べていたリンゴのひとかけらだ。反射的に口を開けば、男らしいごつごつした指といっしょに甘酸っぱい味が広がった。
「お前、今の、全部口にだしてた」
「‥‥ぇえ!?」
口に含んだリンゴを吹き出すような勢いで絶叫した綱吉の悲鳴に、の爆笑が重なった。




「どうしてディーノを選んだのか、か」
久しぶりに帰ってきた実家の自室で、は昼間綱吉と交わした会話を思い返していた。
綱吉に言ったことは全て事実だ。綱吉が気か付かずに全て口にだしていた突っ込みの半分は、かつて自身もディーノ本人に突っ込んだ。ところがあの頃のディーノは天然のボケなのかただ単に神経が太すぎるだけなのか知らないが全く気にしていなくて、ちょっとばかし疲れたことを覚えている。
「いやなんつーか、今考えてもめちゃくちゃだったよなぁ、あれは‥‥」
今ほどの身長もなく、まだもう少しはガキくさい顔つきだった自分に対して子どもの領域をいち早く脱出した異国の青年がしごく大まじめに告白した日のことを思い出して、は小さく苦笑した。

01:そのわけは


2008.02.14