ガキィン、と金属音が響いた。トンファーと鉄扇がぶつかりあう。
トンファーを持つのは細身の男。鉄扇を持つのは細身の女。
しかし互いの奮う凶器に込められた力は凄まじく、一応室内であることを考慮してはいるものの両者に容赦は一切無かった。
殺気が吹き荒れる。両者の口元が喜びに歪む。
実力はほぼ同じ。いや、実を言えば女の方が上なのだが、特殊能力を使わない純粋な力技ならほぼ互角。あるいは筋力でやや劣るか。
鉄扇を横薙ぎにふるう。避けられる。トンファーが腹を狙ってくる。これは予測済み。仕込み棘のでていない、ノーマルタイプのトンファーならば素手でも止められる。横薙ぎに払った勢いそのままに足を蹴り上げる。トンファーが一本、中に舞った。しかし続く第二撃。トンファーは二本あるのだ。後ろへ下がる。しかし下がりすぎてはいけない。後ろには家具がある。実は彼女が気に入っている一級品だ。壊したくはない。鉄扇とトンファーが噛み合う。力の拮抗。しかしこのままでは次の動作が始まらない。それは相手も同じ。彼女はふっと力を抜いた。いや、両者とも抜いた。それは同時。第二撃を振り上げたのも同時。
ガキン、と、一際大きい金属音。続いてゴト、ゴト、と重たげな物が落ちる音が二回。トンファーと、鉄扇だ。
両者とも互いの武器をぶつけ、どちらも弾かれた体勢のまま固まっていた。手がしびれている。ああまた引き分けだな、と彼女は思った。
「終わりにする?」
長い髪を片手でかき上げながら、彼女は聞く。
武器の弾かれた右手を凝視していた男は、そうだねと言って殺気を収めた。
「何か甘いものでも食べようか、
「そうね。久しぶりに和菓子がいいわ」
互いに互いの武器を拾って、放り投げる。
己のトンファーを受け取った男――雲雀恭弥は、すぐに用意させるよと言って、彼にしては珍しくその端正な顔立ちの上に笑みを浮かべた。





雲雀恭弥は、の親友の兄であり、彼女の恋人である。初めて会ったとき、じっと顔を見つめられた後に一言「咬み殺したい」と言われ、やれるものならどうぞと気軽に殺し合いを始めたのが始まりだ。それからずっと引き分け続けるうちに恋人同士となり、ときおりこうして手合わせをしつつ、遠距離恋愛を続けている。
「おいしい?」
「最高。やっぱり和菓子は日本で食べるのが一番だわ」
口の中で溶けるほんのりとした甘さには満足げに笑った。彼女は普段遠いイタリアで暮らしているので、こうして日本に来て恋人と過ごせる時間はとても貴重だ。
雲雀の漆黒の瞳が、の長い青銀の髪と瞳のスカイブルーを熱心に見つめている。どうしてこの男を選んだのかと聞かれれば答えはいくつもあるが、そのうちのひとつが雲雀のこの表情だった。本人に言うと怒られるかもしれないが、高すぎるプライドとときおりこうして見せる幼いこどものような無垢な表情のギャップがたまらなくかわいいのである。
最近結構大きな仕事を終えたばかりなので、若干疲れがたまっていたのだが、久しぶりに会った恋人と、彼女の大好きな和菓子の御陰で気分は上々だ。これがあるからこそ、仕事のしがいもあるというものだ。
ふわふわの和菓子をそっと指先でつまんで、は今日一番の笑みを浮かべた。



久しぶりに会った恋人は、いつにもまして上機嫌らしい。
雲雀が用意した和菓子をひとつひとつ味わうようにゆっくりと消費していくを見つめながら、雲雀恭弥は相変わらず綺麗な色をしている彼女の髪と瞳を思う存分に堪能していた。珍しい青銀の髪と、よく晴れた夏の日のようなスカイブルーの瞳はそれだけで芸術品だ。
はマフィアの娘なのだという。どこのファミリーだったのかは忘れたが、そこそこ大きく有名なマフィアのボスの娘らしい。雲雀はマフィアの世界はよく知らないからそのあたりの話は深く突っ込まなかった。とりあえずこうして彼女の仕事の合間に殺し合いができて、一緒に和菓子を食べられるならそれでいい。手合わせなどはもう何百戦としているが、一向に決着はつかなかった。そこだけが不満だ。
「そういえば、はどうしたの。また仕事?」
「そう。残ってた仕事のいくつかを押しつけてきちゃった」
「それでここ数日姿が見えないんだ」
「そういうこと」
は、雲雀の弟だ。の幼馴染みで、親友で、仕事の相棒。がマフィアの世界では名の知られた殺し屋だと知ったときは少し驚いたが、まぁなんとなく納得もできた。このという少女とは幼い頃に誘拐された先で出会ったらしいが、そのときから力関係は変わっていないようなので、きっとゴーイングマイウェイなに引っ張られるうちにずるずると入り込んでいったのだろう。は流されやすい性格だが、いつも必ず自らの意思で流されることを決める。ということは本人が選んだ道なので、特に何も言うつもりはなかった。というか自分だって似たようなことをしているのだから言えるはずもない。
「ね、恭弥。今度あれ食べてみたい。八つ橋」
彼女専用の桜模様のついた湯飲みを傾けていたがふと思い出したように言った。八つ橋といえば、京都だ。通り過ぎたことはあっても行ったことはないと言っていたから、いつか連れて行ってやるのもいいかもしれない。
「いいよ、すぐ取り寄せてあげる」
「取り寄せじゃなくて、京都に食べにいくのは?」
「いいね。きみの予定が空いてるなら、いつでもいいよ」
「じゃあ次に来たときにね。また仕事頑張らなくっちゃ」
ふふふと嬉しそうに微笑む。
流れる髪から香る、やわらかな異国の匂い。

ああ全く、なんで彼女はこんなにも美しいのだろうと思った。

久しぶり

裏は消しました。というか、大幅に書き直しました。恥ずかしすぎる。下手すぎる。一年もさらしていた自分の首をきゅっと締めてやりたいです…。もし前に見ちゃったよーという方がいらっしゃったら、全力で忘れてください。なんであんなもの書いたんだろう。まあ、裏要素の入ってる作品は全部現役受験の12月に書いているし、いろいろ頭の中がカオスだったんでしょうね。(遠い目) もう二度と書くものか!
なんか、雲雀さんが雲雀さんじゃないような気もしますが、このシリーズの雲雀さんは基本的に彼女ラブなので、恋人限定でとても献身的です。雲雀さんにとって人間とは側にいてもいい人(恋人と弟)とその他の二種類しかいないに違いない。

2007.12.09 (裏消去 09.02.19)