ども、猫です。 …イヤ、嘘。ウソだってちょ、肉球プニプニすんのやめ…、ぎゃあああ! 「骸様。ものすごく嫌がってます」 「おやそうですか? 僕には気持ちよすぎて悶えているようにしか見えませんけど」 暴れる俺の身体をがっちりと抱え込んだ骸がクフフと笑う。 しっぽを思いっきり奴の膝に打ちつけての抗議をキッパリと無視して、いたくご満悦だ。 「やっっっめろって言ってんだろこのパイナップルが!」 膝の上から勢いよく飛び降りてフーッと威嚇する。 すんでの所で俺の鋭い爪をかわしたゴシュジンサマは、余裕しゃくしゃくの表情でゆったりと足を組かえて目を細めた。 「うるさいですよカル。飼い猫は飼い猫らしく主人の膝で丸まっていたらどうです」 「そもそも俺猫じゃねーし!」 「クフフ、そうですねぇ。しかし君にプニプニの肉球が付いているのはまぎれもない事実です」 笑顔全開で言われた言葉に俺はぐっとつまった。 そう、いくら猫とも犬とも狐とも狼とも言えない不思議な姿をしているとはいえ、俺のふわふわもこもこの白い毛に覆われた両前足には立派な肉球がついている。 肉球を押されるたびに全身の力が抜けてなんともいえない快感が駆け巡るのだが、俺は自分がそんな状態に陥るのがとにかく嫌だった。 なのにコイツはしょっちゅうひょいと俺の身体を捕まえては膝にのせ、プニプニ肉球を堪能するのである。 何が悲しくて男の膝の上でゴロゴロしなければならないのか。 せめて美人のおねーさんにしてくれ! 「わがままな猫ですねぇ。では、これでどうです?」 「幻術で姿変えたって意味ねーっての!」 思いっきり吠えた。 で、だ。話はそれたが、どこまで話したんだっけ? ん? ほとんど何も説明してない? しょっぱなっから脱線した? ああそりゃ悪かった。 んじゃ最初からいこう。 俺の名前はカルブンクルス、略してカルクス。 さらに略してカルと呼ぶやつもいるが、ぶっちゃけカルブンクルス自体が真名じゃないんで別になんでもいい。 え、じゃあ本当の名前はなんだって? 悪いんだがそれは内緒だ。 今のところのゴシュジンサマである骸にだって教えてないんだから、ま、諦めてくれ。 身体は白くて長いさらさらな毛に覆われ、ルビーのような紅い瞳、しなやかな身体をもつ四つ足動物だ。 大きさは少し大きめの猫くらい。 顔つきはどちらかと言うと狐や狼に近く、身体とほぼ同じくらいの長さのあるしっぽもやはり長い毛に覆われている。 犬でも猫でも狐でも狼でもない俺はとりあえずキメラということになっているが、実際は全然違う。 違うんだが、かといって本当のことを言うのは面倒くさいことこのうえないのでとりあえずはそういうことにしている。 俺のルビーのような両目を初雪に散った血のようだ、と表現したのは今のゴシュジンサマだ。 全く悪趣味だと思ったのは決して俺だけではないと思う。 「おや何か言いましたか?」 「いーや、なんでも」 とにかくまぁ、そんな感じだ。 俺がコイツ、ボンゴレの霧の守護者である六道骸に出会ったのは、どっかの海岸だった。 ぽてぽてと砂の感触を楽しみながら散策していた俺を見つけた骸が餌で釣って(林檎は俺の大好物なんだ!)俺を捕まえたのがはじまりで、それ以来こうしてよくわからないペットとゴシュジンサマの関係を続けている。 まぁコイツの俺の扱いはしょっちゅう肉球をプニプニしたがる以外はとても丁寧だし、普通の人間のように俺の秘密を暴こうという悪意もないので居心地は大変良い。 最初は人の言葉をしゃべる動物にどう接すればいいのか戸惑っていたクロームも、最近ではすっかり慣れたようで暇さえあれば俺のさらさらの毛にブラシをかけては感触を楽しんでいる。 全くもって、面白い人間たちだ。 だから俺は猫じゃない!
『Carbunculus (カルブンクルス)』 “燃える石炭”の意 |