結局その後どうなったかというと、逃げた。が。 パイを食べ終わった後の雲雀の気配がなんだか危うかったので、適当に車を走らせて人のいなそうな所へいって、仕方がないから相手をしてやった。 とはいっても目的は雲雀を振り切って逃げること。 適当にトンファーをかわしてダメージを与えて、意識まで落として放置するのはなんとなく後が怖くなりそうだと思ったので首から下だけしばらく動かせないように衝撃を与え、雲雀が動けないでいる間にさっさと車に乗って逃走したのだ。 とりあえずかなり離れた別の町まで運転し、ナンバーを確実に覚えられてしまったであろう車は処分する。 かわりに別の車に乗り換えて、さらに遠くの町へと走った。 滅多に使わない臨時用のアパートに戻って、ふうと息をつく。 「もーマジ、勘弁してくれよ‥‥。俺は戦闘狂じゃねえっつーの」 動きを封じて地面に押さえつけても、雲雀の瞳は咬み殺すと雄弁に語っていた。 どこにあんな馬鹿力が隠されてるのか知らないが、雲雀の腕を掴み背に膝を乗せうつぶせに押さえ込んだときの感触は思った以上に華奢で、抱きしめたらちょうどいい細さだなとか一瞬でも考えてしまった自分に嫌気がさす。 執拗に自分を咬み殺そうとしてくる相手に対してそんなふうに思うとは、よほど疲れているということか。 「つーか、あいつがあんなこと言いやがったからってのもあるよな‥‥」 これが殺して済ませてしまえる相手ならともかく、殺すとやっかいな相手に つきまとわれるのがこんなにも面倒なこととは思わなかった。 「諦めてくんねーかなあ。でもあの様子じゃ無理そうだしなあ‥‥。 ボンゴレのドンを尊敬するぜ。俺はあんな部下持ちたくねー」 ぼやきが出てしまうあたり、やはり精神的にきているのかもしれない。 ボフンとベッドに仰向けに倒れて、大きくため息を吐き出した。 また逃げられた。 しかも今度は動きを封じられたうえに地面に俯せに叩き落とされ、上にのられたのだ。 普段の雲雀にしてみればこのうえなく屈辱的なことだが、しかしその後の展開を考えるとかえって良かったかもしれないと雲雀は思った。 膝で背中に乗り上げて痛いほどの力で雲雀の腕を掴んだ男は、驚いたようにこう言ったのだ。 『お前、‥‥細っ』 自分が華奢な方であることは十分自覚している。 しかしにとっては予想以上の細さだったようで、彼はしばらく雲雀の身体をじっくりと眺めていた。 その反応が少しばかり面白かったので、むくむくといたずら心がわいてくる。 首を捻っての顔を見上げると、からかうように言ってやった。 『細い方があなた好み?』 『‥‥このクソガキ』 パイを差し出したときと同じように、は嫌そうな顔をした。 しかし今度はずいぶんと余裕があるのか、唇を歪め、大人の男らしい大きな手で雲雀の頬を優しくなで上げてくる。 『そーいう台詞はもうちっとかわいらしさをアピールしながら言うんだな』 それだけ言うとさっさと車に乗って立ち去ってしまったが、に対する有効なアプローチの方法を見つけただけでも収穫だった。 もともと自分より強いあの男を簡単に咬み殺せるとは思っていない。 あの男の端正な顔立ちが歪むさまを思い返して、雲雀の心は弾んだ。 X 逃亡再び
戦闘シーンはメインではないのでできるだけ削ります。 ‥‥ぶっちゃけ苦手なだけですが(オイ) 08.05.31
|