06: 「おーおーおー。仲が良いことで」 マンションの屋上で男は楽しげに呟いた。 数十メートル離れた所に立つ建物の屋上には、この距離でもはっきり分かるグリーンと小柄な人影。 先ほどから男は、胡座をかいてその二人をんびり眺めている。 精悍な顔つき、短めの黒髪に日本人らしい黒目。 黒地にワンポイントを赤で統一した服装、太すぎない程度にしっかりと筋肉がついた身体は、いかにもスポーツ選手によくあるシルエットだ。 「加奈が言ってた通り、マジで惚れてんだなぁ・・・。いいねぇ、若いってのは」 自らの年を嘆く口ぶりでもなく言うと、背後によく知った気配が降り立つのがわかった。 モーターが止まる独特の音と共に、呆れたような言葉が落ちてくる。 「君だって十分に若いじゃないか、雷覇」 「でももうあんな純粋さは持ってねえからなぁ」 「それは年のせいではないだろう?」 込められた皮肉に、男――雷覇は笑う。 それは日頃の行いのせいだと暗に言われているのだ。 確かに、と、雷覇は思う。 自分は初代のようなキス魔でも秋のようなかわいいもの好きの両刀でもないが、それに匹敵する程度にはいろいろとやらかしている。 それを自覚しているからこそ、雷覇は皮肉をわざと無視して答えた。 この男、スピット・ファイアは、それがわからないほどにつき合いの浅い友人ではないのだから。 「おうよ。年なんかにゃ俺は負けねえよ」 振り返りもせずに答えた雷覇の横に腰を下ろしたスピットは自分も雷覇が見ている方向を見て、おや、と片眉をあげた。 「くんと、咢くんじゃないか。珍しい組み合わせだね」 不思議そうに言うスピットに、雷覇は明らかに面白がっている口調で言う。 「あいつら無自覚カップルなんだってよ」 「無自覚カップル?」 あの二人が付き合っているということ自体が初耳だが、それよりもスピットは言葉の意味の方が気になった。 なぜ無自覚。 「両思いだって気付いてねえから、無自覚。で、両思いだって知ってる他から見たらあの二人はカップルに違いねぇから、無自覚カップル。単純だろ?」 「・・・間違ってはいないと思うけどね・・・」 スピットは苦笑した。 全く、なんてストレートなネーミングだ。 「それよりも雷覇。あの二人、いつからあんなに仲が良いんだい? くんと咢くんが知り合いってことすら、僕は知らなかったわけだけど」 「一昨日とか、そこらへん。少なくとも一週間は経ってねえってさ。詳しくは加奈に聞け」 「一週間・・・」 それは、いくらなんでも、早すぎではないのだろうか。 黙り込んだスピットに雷覇はかかかと笑う。 「両思いってのは間違いねぇよ。つっても子鮫の方はどうだか知らんけどな。 加奈が確認とったら亜紀人が太鼓判押したっつってたし、ま、そうなんだろ」 「亜紀人くんが? じゃあ本当にそうなんだ」 咢は自分の感情に疎い。 逆に亜紀人は鋭いから、きっと咢は亜紀人に言われるまで気付かないのだろう。 「で、君はいつまで覗いているつもりだい?」 「いつまでってそりゃ最後まで。あのがどこまで押せるか、見物だろ?」 「二人に失礼じゃないか」 趣味が悪いよ、とスピットが咎めるように言った。 が、それで素直に頷くほど雷覇は真っ直ぐな性格をしていない。 「俺の耳に入った時点でこうなることぐらい予想はつくだろ。他のやつらに口止めしておかなかったあいつが悪い」 「普通、そこまで頭は回らないと思うけどね・・・」 スピットはため息をついた。 もうこれ以上言ったところでこの雷覇という男が動かないであろうことはわかっているから、諦めるしかない。 「じゃあ、僕はもう行くよ。あんまりくんをいじめすぎないようにね」 「まあ待てよ。どうせあいつ、そのうちお前んとこ行くんだろ? そんときにからかうネタに見てけって」 「だから僕は君と違って人をからかうような趣味はないんだって。それよりなんで知ってるんだい」 「あいつの頭見りゃわかんだろ。生え際が黒い」 立ち上がろうとするスピットと腰を下ろさせようとする雷覇の攻防戦。 スピットは足に、雷覇は腕に力をこめているのだが、会話だけ聞いていれば二人の力むがゆえの身体の震えなど全くわからないだろう。 「あ」 「え?」 ふいに雷覇が横を向き、声をあげた。 スピットもその視線を追う。 すると、離れた場所のビルの上で、よく見知った少年達の顔がくっついているのが見えた。 「おー、頑張ったなあ、。えらいえらい。褒美に今夜にでも思いっきりからかってやろう」 雷覇の手が離れ、携帯を取り出す。 その指がすさまじい早さで短い文を作成し、自分も知り合いである少女へと送信するのを見ながらスピットはもう一度腰を下ろした。 ここまできてしまえば、見るも見ないも関係ないだろう。 それにしても。 「くん、怒るだろうなあ」 「いいんだよ。つかどうせあいつに何か言われたとき、お前俺の名前だすだろ?」 「当たり前だろう? これは僕のせいじゃないからね。不可抗力だよ」 「お前も大概良い性格してんじゃねえか」 「雷覇には負けるけどね」 「いーんだよ、俺は。あのチームの総長は多少性格がねじ曲がってるくらいじゃねえと務まらねぇの」 「性癖はともかく、歴代総長の中で一番性格に問題ありなのは君だと僕は思うけどね」 自分以外の二人の総長の顔を思い出しながら、二代目総長である雷覇は笑った。 キス魔に両刀、変わった性癖こそ持ってはいないものの性格的には一番癖があると評される自分。 このチームの総長は三人とも、どこかしら変な部分を持っているのだ。 「俺は一番ましだと思うけどな。少なくとも友人だろうが同姓だろうが彼氏持ちだろうが結婚していようが誰彼かまわないキス魔よりは」 「友人だろうが同姓だろうが彼氏持ちだろうが結婚していようが誰彼かまわず勘違いさせるくせにフォロー一切無しの君が言えるのかい」 「彼氏持ち結婚済みは気をつけるようにしてるんだぜ」 「君に惚れた女性に棄てられた男たちがうざったいからってだけだろう」 「まあな」 くくく、と雷覇は喉の奥で笑った。 スピットはやれやれと肩を竦める。 「・・・・・・ってうわやっべ、時間切れだ。戻んねえと」 ふと時計と見た雷覇は慌てて立ち上がった。 どうやらさきほど携帯をいじったときには時間を確認していなかったらしい。 「担当が原稿取りにきちまう」 「〆切は一週間後だろう?」 「なんかいろいろあったとかで、カットされたんだよ。あんにゃろう、なんて言ったと思う? 『速筆かつ〆切破りが一回もない雷覇さんのことですから、一週間くらいどうにかなるでしょう』だぜ? ふざけんじゃねえっての。俺を殺す気か」 人気小説家でもある雷覇の担当はなかなかにやり手らしく、雷覇とまともにやりあえる数少ない貴重な人物だ。 そういえばここ数日空での姿を見なかったのは、最後の追い込みをしていたかららしい。 「んじゃな、またそのうち飛ぼうぜ」 片手を上げると、雷覇は飛び出した。 建物の壁や屋根を伝って、あっという間にその姿は見えなくなる。 雷覇も忙しいなあ、とスピットは苦笑した。 だからこそ、二代目総長の座をに譲ったのだが。 「さて、と」 くんや咢くんに見つかる前に退散するとしますか。 もう一度だけ遠くのビルを見てから、スピットも駆けだした。 |
Hunt the Hunt 05: レギュラーを少なく、とか言ってたくせにまたオリキャラ。 二代目総長、雷覇登場。先代です。 男前を目指して書いたのですが、三人の総長の中で性格は間違いなく雷覇が一番やっかいだと思います。この人好きだけど。 友人だろうが同姓だろうが(以下略)誰彼かまわないキス魔は設定を読めばわかる通りのあの人。 またもやオリキャラですが。本当にオリキャラ多いな。 夢というよりはひとつの読み物として読める原作の番外編的な名前変換小説が好きなので許してください。 オリキャラ万歳!(笑) 2006.8.10
先代の修正が一番多いので一番苦労しました。ちなみに雷覇には裏設定があったりするんですが、これ書けるかなぁ。 それと、名前は同じですがリボーン夢の雲雀雷覇とこの雷覇は全くの別人です。向こうの雷覇くんは名前が決まらなくって仕方なくこっちから借りたってだけなので。 そのうちいい名前が浮かんだら変えたい。 2008.7.20 修正
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