05: 昼頃。 ビルの屋上の日陰で寝っ転がっている咢を上から覗き込んだは首を傾げた。 「・・・あれ? 眼帯が逆になってら」 すーすーと気持ちよさそうに寝ている咢の眼帯は、いつもと逆になっていた。 そういえばなんで眼帯してるのか知らなかったなと思いつつ、せっかくだからと寝顔を観察する。 真っ白で、柔らかそうな肌。 長いまつげ。 小さく開いた口元。 柔らかそうな唇。 思わず見入っている自分に気付いて、は慌てて覗き込むのをやめた。 やべぇやべぇ。 咢を起こさないようにぶんぶんと首を振って、隣にごろんと転がる。 「いー天気・・・・・・」 くあ、とあくびをひとつして、は目蓋を閉じた。 「・・・・・・あれ?」 ぱちり、目覚めた亜紀人は隣で寝ている人物を見て首を傾げた。 「いつ来たんだろ? 起こしてくれればいいのに・・・」 あ、でもさんは咢が大好きだから無理には起こさないか。 じっと顔を見つめる。 すると突然のポケットから音楽が流れ出した。 それに反応して眉を寄せたの手がもぞもぞと動いてポケットの中を探る。 電話の着信ではないことが始めから分かっているのか、は画面を軽く見ただけでぱたんと携帯を閉じた。 そして起きあがると、咢を見てにかっと笑う。 「あ、おはよ咢」 「こんにちはさん。ボクは咢じゃなくて、亜紀人だよ」 「・・・・・・・・・・・・へっ?」 はぽかんと口をあけて止まった。 そしてじーっと亜紀人を見つめる。 「・・・・・・双子?」 「ううん、違うよ」 「???」 混乱してきたらしいに亜紀人は説明をする。 ちなみに咢はまだ、亜紀人の中で眠ったままだ。 ひとしきり説明すると納得したらしく、はほーほーと頷いて苦笑した。 「なんだ、咢もそれならもっと早く紹介してくれてもいいのにな。これからよろしくな、亜紀人」 そう言ってがしがしと亜紀人の頭をやや乱暴にかき混ぜる。 うし、と立ち上がるとはぐっと伸びをした。 「あれ、そういや亜紀人は飛べるのか?」 「ううん、ボクは飛べないの。咢だけ」 「そっか」 はちょっと考えるように顎に手を当てた後、にやりと何かを思いついたように唇の端をつり上げた。 「亜紀人亜紀人、」 ちょいちょいと立ち上がるように手招きする。 不思議に思いながらも亜紀人が立ち上がると、は亜紀人を横抱きに抱え上げた。 「わっ、さん?」 「飛ぶの嫌いか?」 「え、そんなことはないけど・・・」 「じゃ、捕まってろよ」 「え、ちょっと、さっ・・・!」 亜紀人が止める間もなくはぐっと飛び上がった。 隣の建物に移り、加速していく。 ビルからビルへ、時たま背の低い建物の屋根を伝って、は街の中を駆けていく。 の首にしがみついたまま流れる景色を見ていた亜紀人は、ふいに嬉しさがこみ上げてきた。 いつもは咢の視線を通してしか見ることの出来ない風景。 直接肌で感じる風。 空気を切る音、風の匂い。 独特の浮遊感。 どれも、咢を通してしか感じることのできなかった感覚。 街を一週して元の屋上に戻ると、は亜紀人を下ろした。 あのスピードでこれだけ走ったというのにの息は全く乱れていない。 ただ羽織っていたグリーンのパーカーが暑かったのか、脱いで腰巻きにした。 いつも持ち歩いているらしいペットボトルで水を一口飲んでから、は亜紀人の顔を覗き込んでにかっと笑った。 「気持ちよかった?」 「うん!」 満面の笑みで答えた亜紀人に、はそりゃ良かったとぽんぽんと頭を撫でる。 「たまにはこういうのもいいだろと思ってな。また飛びたくなったら言えよ」 そう言ってからは空になったらしいペットボトルを慣れた手つきでビルの外へと投げ捨てた。 慌てて亜紀人が下を覗けば、吸い込まれるようにして下に設置してあったごみ箱に入ったペットボトルが見えた。 「すごーい・・・」 「俺の特技な。どの位置にあるのか先に確認さえしておけばどっからでも投げ入れられるぜ」 今回は投げ落とすだったけどな、とも下を覗き込んで言った。 と、そこで亜紀人は気付いた。 咢がそろそろ起きそうなのだ。 半分寝ぼけたような呻き声が聞こえてくる。 「あ、」 亜紀人はに聞こえない程度の小声で呟いた。 への感謝と咢への悪戯、両方できそうなことを思いついて、くすくすと笑う。 (ねえ、咢。さんって、とってもいい人だね。後は頑張って) まだ半分夢の中の咢に心の中で言って、亜紀人はの袖をひっぱった。 「ねえねえさん」 「ん? どうした亜紀人」 振り返る。 少しだけ勢いを付けて、亜紀人はの腹に抱きついた。 |
Hunt the Hunt 05: 2006.8.10
2008.7.20 修正
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