04: 最近家庭教師になった知り合いを待っている間に本を読んでいた亜紀人は、 隣に座っているアキラからちらちらと何か物言いたげな視線を受けて首を傾けた。 ぱたんと本をテーブルに置く。 「ねえ、アキラ君。僕の顔に何かついてる?」 「いや、そういうわけじゃ、ないんだけど・・・・・・」 言葉を濁したアキラに、亜紀人は?を浮かべる。 「咢なら寝てるよ?」 カマかけに言ってみると、アキラの顔が面白いくらいに焦ったような表情に変わった。 なんでわかったんだ、とでも言いたげに口をぱくぱくさせるアキラに亜紀人はビンゴ、と心の中で呟く。 「アキラ君、わかりやすすぎるんだもん」 言えば、がっくりと落ちる肩。 「で、何?」 もう一度聞けば、アキラは意味もなく声を潜めて言った。 「最近の咢、何かあったのか?」 ぱちくり。 一度ゆっくりと瞬きをして、それから亜紀人はゆっくりと微笑んだ。 「何があったと思う?」 「・・・わからないから、聞いてるんだけど・・・」 困ったように言うアキラに、亜紀人はそれはそうかと苦笑した。 「咢にね、恋人ができそうなんだよ」 「・・・・・・は?」 「まだ会って二日しか経ってないんだけどね、咢がかなりなついてるんだ。これって脈有りだと思わない?」 ふふふ、と亜紀人は嬉しそうに笑う。 「向こうがどう思っているのかはまだそんなに良くわからないんだけど、 好意を持ってくれているのは確かだし」 咢が嫌がるだろうと思ったので二回目に二人が会ったとき亜紀人は咢の中で眠っていたから、詳しくはわからない。 ただ、断片的にある記憶と、咢の様子を見ればだいたい想像はついた。 「だから物思いにふけっていることが多かったのか・・・」 アキラは納得した。 昨日の咢は、仕事はいつも通りにきちんとこなしていたが、それ以外のときは少しぼやっとしていたのだ。 これが恋煩いというやつなのだろうか。 うんうんとアキラが頷いたときだった。 がちゃり、何の前触れもなくトレーラーの扉が開く。 首をのぞかせて亜紀人達のいる方を見た少女は、アキラを見て不思議そうに聞いた。 「なに一人で頷いてるの? アキラ」 「加奈ちゃん!」 最近家庭教師役を引き受けてくれた加奈はアキラの友人だった。 何故だかよく分からないが海人も加奈のことを気に入っているらしいので、 加奈はこのトレーラーに自由に出入りができる。 勝手知ったる人の家とばかりに遠慮無くあがりこんだ加奈は亜紀人の正面に座った。 亜紀人が三人分の飲み物をテーブルに置く。 「で、アキラはなにを頷いていたの?」 「いや、たいしたことじゃないんだけど・・・」 「咢のことなんだよ、加奈ちゃん」 「咢?」 のことかな。 そう思いながら、加奈は亜紀人の言葉を待つ。 「最近咢にいい人ができたんだけどね、その人、加奈ちゃんのチームの総長みたいなんだよ。加奈ちゃん、何か聞いてない?」 加奈が口を開く前に、コップを傾けていたアキラがゲホゲホと咳き込んだ。 倒さないようにコップを遠ざけて一通り咳をしてから、アキラは涙目になって叫ぶ。 「咢の恋人って、さん!?」 「アキラ君、知ってるの?」 「知ってるもなにも、俺がめちゃくちゃ尊敬しているライダーの一人だよ! よく海人さんをからかって馬鹿にして遊んでる人なんだけど、亜紀人、知らなかったのか?」 亜紀人は首を横に振った。 兄である海人をからかいまくるライダーがいることは知っていたが、まさかこの人だったとは。 「そりゃ確かに咢はさんの好みにストライクで入ってるけどさ・・・」 あああああ、とアキラは頭を抱えた。 信じたくない、自分が尊敬するトップライダーと親友が恋人関係だなんて。 二人のことを否定するわけではないが、アキラは泣きたくなった。 「・・・そんなに、ショック受けることはないと思うけど」 呆れがまじったような声で加奈は言う。 まあ、アキラの気持ちも、わからなくはないのだが。 自分が尊敬していた人物がバイで遊び人だったと知ったときでさえ、アキラはかなりの衝撃を受けていたのだし。 「いいんじゃないの、はでべた惚れしてるし」 「そうなの?」 ただ一人のことを知らない亜紀人が目を輝かせて聞く。 「そうなの。口を開けば咢咢ってうるさくて」 「じゃあ、両思いだね!」 両手を合わせて嬉しそうに亜紀人は言った。 加奈は一瞬驚いてから、ゆっくりと首を傾ける。 「咢も、のこと、好きなの?」 嫌いではないだろうとまでは予想は付いていたが、加奈はと知りあった後の咢とは話していなかったので、いまいち確信が持てなかったのだ。 今日来たのだって勉強をみるため、というのはあくまで建前で、本人がどう思っているのかを確かめにきたのだが。 「好きだよ! 本人は、まだ自覚してないけど」 自信満々に亜紀人は頷く。 加奈はほっと胸をなで下ろした。 「良かった。駄目だったらどうしようかと思った」 「? どういうこと?」 「昨日に相談されたの。押してもいいかなってね。たぶん大丈夫でしょって答えはしたけど、もし駄目だったらどうしようかなと思って」 もし駄目だったら、チームCrush Air崩壊か、というところまでは落ち込むだろう。 そうしたら苦労も責任も全て自分にのしかかってくるのだ、それだけは避けたい。 などという加奈の自己保身的な考えなど知らずに、亜紀人は無邪気に喜んだ。 「じゃあ、放っておけばそのうちくっつくんだね?」 「それはどうかな。あの人、本気になると臆病だから」 きっといつどのタイミングで切り出そうか迷いに迷って時間だけがずるずると流れていくのだろう。 「んー、困ったな。咢からってのは、ないだろうし・・・」 「まだ二回しか会ってないんでしょ? しかもは亜紀人のこと知らないし。あと何回かは様子見てみたら」 「・・・そうだね。うん、そうする。次に咢がさんと会うときは僕も会わせてもらおっと」 咢が起きたら頼まなきゃ。 はしゃぐ亜紀人の隣で、アキラは未だにぐったりと潰れていた。 「アキラ、いい加減立ち直ったら?」 「無理・・・。雷覇さんはまだしもユウマさんといいといい、なんでこうCrush Airの総長ってみんな遊び人なんだろう・・・・・・」 あのCrush Airの総長を務めているくらいなのだからどこかしらそういうところはあるだろうとわかってはいたけれど、まさかバイだとは思わなかった。 どうやらまだまだ純粋な部分が多く残っているらしいアキラにとって、両刀は触れたことのない領域だったらしい。 上手く飲み込めていないだけで拒否しているわけではないのがアキラらしいところなのだが、加奈は苦笑した。 自分は始めから彼らと一緒にいたから慣れてしまっているけれど、よく考えたらあの総長たちは確かに変わっているのかもしれない。 一人は遊びはバイで本気はノーマルなキス魔、一人は特に女好きというわけではないものの無駄に面倒見がよいせいで相手に勘違いされるのがもはや自然体になってしまっている男前、そしては猫タイプの小柄が大好きな両刀。 それを当たり前のように受け入れている自分や亜紀人と戸惑いながらも受け入れようとしているアキラ、はたしてどちらが正しい反応なのかと考えて、加奈はすぐにやめた。 知り合い達を思い返してみる限り、圧倒的な差で前者の方が多いのだ。 諦めて受け入れた方が胃のためだよと言えばもう胃が痛いと返ってきた。 「咢とさんのことを海人さんが知ったら、どうなると思う?」 ふむ。 そこまでは考えてなかったが、想像することはたやすい。 「間違いなくアキラの心労が増えることだけは確かだけど」 「きっとさんの居場所吐けとかおびきだせとか言うんだぜ? そうしたら、咢がかわいそうだ」 「それは大丈夫。わたしが止めるから」 「・・・加奈が?」 加奈はにっこりと頷いた。 その表情を見て、アキラはそういえば海人さん、加奈には強くでれないところがあるんだよなあと回想する。 咢と自分の自由時間が増えたのも、物が散乱していたトレーラーが最近綺麗なのも、加奈が海人に進言した結果なのだ。 家庭教師役については、加奈が言う前に海人が勝手に決めたことだったが。 「わたしがCrush Airの副総長って知っててカテキョにしたくらいだし、大丈夫でしょ」 加奈があまりにもはっきりと断言するものだから、アキラはそうか、とだけしか返せなかった。 チーム最年少ながら見事に総長補佐を務め上げるこの少女がいうのだから、きっと大丈夫なのだろう。 について亜紀人から質問攻めにあっている加奈を見ながら、アキラはテーブルに突っ伏した。 なんで自分の知り合いは皆個性的すぎるのだろうと、涙を流しながら。 |
Hunt the Hunt 04: 2006.8.7
2008.7.20 修正
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