03: チームCrush Airのミーティングが終わった後、ホームにて。 総長であるは昨日から機嫌が良かった。 にやけているというわけではないが、彼の目元はいつになく嬉しそうに緩んでいる。 Crush Airの初代と並んで遊び人としても有名である彼がこういう風になっているときは大抵好みの人物を見つけたときなので、ほとんどの者が彼よりも年上ばかりのチームメンバーは何も聞かないでいた。 ただ、好奇心を含んだ視線はちらちらと向けられているので、全く気にならないというわけでもないらしい。 誰か聞けよ、いやお前が聞け。 メンバー達の中で無言の応酬が繰り広げられる中、チームメンバーの中でも色気担当と言われるほどの艶やかさを持つ女性、麗奈が笑みを含んだ口調で切り出した。 「ねぇ、ちゃん」 の近くでゆったりと足を組んで座っている麗奈をは「ん?」と振り返る。 やはり、機嫌は相当に良さそうだ。 「どうしてそんなに嬉しそうなのか、聞いても良いかしら?」 麗奈はよりもひとまわり年上なので、を弟のように扱うことが多い。 人の噂、特に恋愛に関しては好奇心旺盛な麗奈は大抵聞き出し役になっていた。 「嬉しそう? 俺が?」 「そう。とおっても嬉しそう。また誰かイイコでも見つけたの?」 紅を塗った形の良い唇を笑みの形につり上げて、にっこり。 だがしかし麗奈とはそれなりのつき合いのあるメンバー達は、その笑顔に含まれたメッセージを正確に読み取った。 もちろんも。 多くのメンバーはこの笑顔で聞かれたら最後根ほり葉ほり言いたくないようなことまで全て吐かされるのだが、は仮にもこのチームをまとめ上げる現総長。 年齢順に数えればチーム内では下から二番目ではあるが、他のメンバーのように気圧されたりはしなかった。 逆に幸せの絶頂とでもいうような満面の笑顔で頷く。 「そうなんだよ。もうめっちゃかわいい子でさぁ、背ぇちっちゃくてでも一人前にかみついてきて、もうかっわいーの」 この総長、遊び人とはいっても女なら誰でもいいというわけではなかった。 まず人や物に関係なくちまいものが好きなので、当然、身長の低い者や小柄な人物に目がない。 そして手を噛んでくるような猫タイプが好きなのである。 メンバーはまたかと苦笑した。 麗奈も笑顔を崩さないままにそう、と頷く。 「それで、ちゃん。男の子かしら? それとも女の子?」 「普通女の子先に聞かない? つーかそれ以前に性別は聞かねぇって」 「あらだって、ちゃんは初代や先代と違って遊びも本気もバイでしょう」 そりゃそうだけど、とはへらっと笑った。 麗奈が言った通り、は両刀、つまりはバイなのである。 初代、つまりはチームCrush Airの創設者、この男もまたバイだったが、 それはあくまで遊びのみで、本気の恋愛に関してはノーマルだった。 そして二代目の先代はといえば女好きと表現するにはいきすぎるにしてもやはりそうとられるような行動をとることも多々あり、しかしもっぱら異性専門である。 だがしかしは違った。 遊び本気に関わらず、好みがいたら性別なんて全く関係なく好きになってしまうのだ。 「男の子でしょ」 「あら、加奈ちゃん」 のかわりに答えたのは副総長の加奈だった。 Crush Airの中で最年少ながら精神的によりも大人びているこの少女は特に表情を変えることなくさらりと言う。 「さっき堂々とビルの上でいちゃついてるの見たもの。後ろから抱きしめてた」 「あら、あらあら」 「ちょ、待て加奈!」 焦ったようにが加奈の隣に駆け寄る。 加奈は開いていた本をぱたんと閉じるとを見上げた。 「お前どっから見てた!?」 「隣のビル」 「なん・・・・・・むがっ」 「はいはいちゃん落ち着きましょうねー」 モデル体型の麗奈は当然、身長もそれなりにあり、との差は5センチほど。 そしてトップライダーである彼女は腕力がある。 をあっさりと押さえると、麗奈は加奈に続きを促した。 「覗こうとして見たわけじゃないよ。ただ昨日あんまりにもかわいいかわいい連呼してたから少し気になって」 「昨日?」 「昨日初めて会ったんだって。みんなはホームにいなかったから知らないだろうけど、昨日の方が、すごかったんだから」 ホームとは今現在彼らがいるCrush Airの本拠地のことだ。 「その子がいかにかわいいかについてずーっと話し続けて止まらないの。あんまりにもうるさかったからアタックしてみれば、って適当にあしらったんだけど。手だすの早かったね」 「あらまあ」 麗奈がの口を塞いでいた手をはなすと、はだってよ、と口を尖らせた。 「まじすんげぇかわいいんだって。今まで会ったどの子よりも一番かわいい。どこがかわいいって全部かわいい。あえて言うなら大きめの瞳とかくるくる変わる生意気そうな表情だけどそういうの全部ひっくるめてとにかくかわいい」 また総長ののろけが始まった。 メンバーは呆れをにじませた顔でへーそう、と適当に流す。 ただ一人、麗奈はののろけが区切りの良いところまでくるとすっぱりと止めた。 「はいはいかわいいのはわかったわ。で、ちゃん。いつ落とすつもりなの?」 「それがなぁ・・・。今日はちょっと急ぎすぎたかなーって思って」 くそう、遊びと違って本気は難しいぜ、とは肩を落とす。 「でもあの子、まんざらでもなかったみだいだけど。そうじゃなかったら本気で嫌がるでしょ、あの子の場合」 「加奈ちゃん、その子のこと知ってるの?」 「うん、結構仲良いから。脈有りかそうでないかぐらいはわかるよ」 一見わかりにくいようで実は結構わかりやすい子だしね、と加奈は肩を竦める。 だがその言葉なんて耳に入っていない様子で、は加奈を凝視していた。 「加奈」 「なに、」 「押しても大丈夫だと思う?」 訊ねるの表情は真剣だ。 いつも笑っているがこんなに真剣な顔をするなんて、今回ばかりは本当に本気らしいと内心で感嘆しながら加奈は頷く。 「うん、大丈夫じゃないかな。むしろあの子はこういうことには疎いから、押し気味でいかないといつまでたっても進展しないよ」 なにせあんな環境の中育った子だし、もう一人のあの子もきっと応援してくれるだろうからなんとかなるでしょう。 最後までは声に出さずに、加奈は心の中でのみ呟く。 は口の中で何度か加奈の言葉を反復すると、よし、と意を決した顔でホームの入り口まで駆け上がった。 「んじゃ、俺今日はもうあがるわ。明日も昼間に飛びたいから早く寝る」 今の時間は夜中の三時近く。 現役高校生であるはいつもなら授業を睡眠時間にあてているのだが、(それでも成績はそこそこ良い)、は昨日と今日に続いて明日も学校を休む気らしい。 「出席日数ちゃんと数えなよ」 「わかってるって。じゃな、」 は軽い足取りでホームから飛び立った。 その後ろ姿を見送ってから、麗奈はため息をついた。 「好みの子を落とすために学校休むなんて、ちゃんらしいわね」 「そのうちさぼってることがあの子にばれて怒られるだろうから平気でしょ」 そういう加奈も学生なわけなのだが、加奈は学年主席の秀才かつ滅多にさぼるようなことはしないので特に問題はない。 「あ、ちゃんに恋人が誰なのか聞きそびれちゃったわ」 あんまりにも熱心だったため、が帰るのを止められなかった。 「加奈ちゃんは知っているのよね」 「知ってるけど。聞いたら驚くよ? 邪魔もしない?」 「大丈夫よ、私たちを誰だと思っているの。今更年下のかわいい弟分の恋に口を挟むほど野暮じゃないわ。さ、おねーさんおにーさんたちに教えてちょうだい」 確かにと加奈以外のメンバーは全員大人だ。 Crush Airは現役を引退した強豪ライダーが遊びで飛ぶためのチームなので、ほとんどが社会で働いている社会人なのだ。 そもそもライダーデビュー当初からこのチームに入っていると加奈の方が珍しいのだが、本人達はそもそも飛ぶこと以外には全く興味がないのでむしろ喜んで総長と副総長という席に収まっている。 メンバー全員の視線を受けて、加奈はちょっと考えた。 恋人が誰なのか、教えるのは良い。 からは口止めされてはいないし、この人たちのことだ、教えなかったところで自力で調べ上げるくらいはするだろう。 ただ、問題は彼らのリアクションだった。 いつもなら音が抜けてしまって全く音が響かないこのホームは現在隣のビルが解体工事中のため埃と騒音防止に窓や扉を閉め切っていて非常に音が反響しやすい。 おまけに今日はミーティングのために普段の倍以上の人数が集まっているのだ。 この状況で叫ばれるのは、正直ごめんこうむりたい。 が、周りの視線は早く早くと訴えかけていた。 仕方がない、嘆息して加奈は本を膝から椅子代わりのブロックに移動させた。 いつでも耳がふさげるように両手を開けておくためだ。 「じゃあ、言うけど・・・。あんまり叫ばないでね」 「わかってるわよ」 本当かな、とでかかったのをすんでのところで飲み込む。 どうせ言ったって無駄なんだろう。 はっきりと聞こえるように声を少し張り上げて、加奈は言った。 「○風Gメンの、鰐島咢」 奇妙な沈黙が流れた。 皆目を見開いて、硬直してしまっている。 ○風Gメンと言えば、このチームにとってはからかいの対象であり、一応敵なのだ。 特にのからかいっぷりは群を抜いてひどかったのだが。 「○風、Gメンの・・・?」 誰かが信じられない、といった風で呟く。 それに頷いて、加奈はあくまで淡々と告げた。 「そう。新宿の鰐の、弟君」 一瞬の静寂。 「「「「「っえーーーーーーーーーっ!!!」」」」」 響き渡った叫び声に、加奈はだから言ったのに、と両耳を手で塞いだ。 |
Hunt the Hunt 03: 悩める総長withチームCrush Airでした。 オリキャラばっかり、というかオリキャラしかいないという。 夢主がチームを持つとどうしてもオリキャラ率が上がってしまうのは仕方がないけれど。なるべくレギュラーを少なくして頑張ろう。 とりあえず加奈はよくでてきます。 麗奈はどうだろう、話を進めやすいからなあ。 お姉様って感じの人なので書きやすい。 イメージ的にはやわらかな色合いの茶髪にゆるくウェーブをかけた感じの美人さんです。色っぽすぎないけどどこか艶やかなおねえさま。 でも腕っ節は強い(笑) それではの「押しても大丈夫だと思う?」というセリフを 「押し倒しても大丈夫だと思う?」と読み間違えてくれる方が少しでもいることを願って・・・。 あ、もし読み間違えた方がいらっしゃったら拍手あたりで教えて下さいな。 ガッツポーズして喜びます(笑) 2006.8.2
書いた当時と設定がだいぶ変わっているので何カ所か修正。特に先代。女好き扱いしてごめんよ…。 2008.7.20 修正
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