落ちていく。







ゆるやかに落ちていく彼を見つけたとき、
比喩でもなんでもなくて、本当に、世界が止まったような気がした。
また。

また、落ちている。
何度も、何度もやめてくれと言ったのに。


!」


叫ぶと、こちらを向いた彼と目があった。
にやりと、笑っている。
は壁を蹴って、それからかろやかに舞って着地した。
小回りがきき、全身をばねのように使って動く彼の姿はまるで猫のよう。
駆け寄って、彼が口を開くよりも先に、強く、強くだきしめた。


「苦しい。スピット」


唇を尖らせて抗議されたけど、それでも僕は放さなかった。
の首筋に顔をうずめて、そこでようやく安堵の息をつく。
彼にあのまま落下するつもりはないということはよくわかっているけれど、それでも焦るものは焦る。
いくらがAクラスのライダーだからといって、必ずしも失敗がないとは言い切れないのだから。
僕はもしが落ちてしまったら、それが怖くてたまらない。


、これで何度目だ? 頼むから、もうやらないでくれ」


からの返事はない。
きっと眉を下げて視線をあちこちに泳がせているのだろう。



「・・・・・・わかった」

もう一度名前を呼ぶと、しぶしぶとは頷いた。
がわざと落ちるたびに繰り返される会話。
これで何度目のことだろう。




がここにいることを感じていたくて、僕は腕に力を込めた。





スピ視点バージョン。
私にしては珍しく主人公設定を全く考えずに書いた、本当に突発ものの作品です。
強いて言うならばちょっと脆くて危ういところのある大学生くらいの青年、かな。
なんでこんなシリアスなの書いたんだろう? 謎だ。


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